12次元の情報場を読む機械 ―― タイムウェーバーと、科学が引く線

12次元の情報場を読む機械 ―― タイムウェーバーと、科学が引く線

体の不調の「隠れた原因」を、12の次元にわたって読み取る。量子物理学の言葉で説明されながら、チャクラやカルマといった項目が同じ画面に並ぶ。そんな機器の説明を見ると、スピリチュアルな装いのマーケティングだ、と感じる方も多いはずです。

ただ、この装置の背後には、物理学と哲学をきちんと修めた一人の人物と、その人が数十年かけて追いかけた一つの問いがあります。宣伝文句よりも、この機器がどんな発想から組み立てられたのかという物語のほうに、ずっと入り組んだ面白さがあります。

ここでは代表格であるタイムウェーバー(TimeWaver)を手がかりに、開発者の歩みと、下敷きになった理論、そして仕組みの考え方をたどっていきます。

物理学と哲学のあいだで ―― 開発者マーカス・シュミークの出発点

タイムウェーバーを生み出したのは、1966年にドイツで生まれたマーカス・シュミークという人物です。彼はハイデルベルクとハノーファーの大学で、物理学と哲学の両方を学びました。

シュミークの関心は、早い時期から一つの方向を向いていました。客観的に測れる物質の世界と、内側からしか触れられない意識や精神の世界を、どうつなぐか。この二つのあいだに横たわる溝を埋めることが、彼の生涯を貫くテーマになっていきます。

大学を出たあと、彼はインドへ渡り、各地の僧院で数年を過ごしました。そこで身につけたのは、ヴェーダの哲学や占星術、建築といった、東洋の精神的な伝統です。西洋の自然科学と、科学と精神を切り離さない東洋のまなざしを、彼は一つに束ねようとしました。

彼が影響を受けたと語る名前も、その関心をよく映しています。人の心の奥をのぞいたフロイト、目に見える世界の下に折りたたまれた秩序があると考えた物理学者デヴィッド・ボーム、時間そのものにエネルギーを見ようとしたロシアの物理学者コズイレフ。表に現れた現実の裏側に、もう一つの層があるのではないか。その問いが、後の「情報場」という発想の芽になります。

12次元の宇宙という下敷き ―― ブルクハルト・ハイムの理論

その発想に骨組みを与えたのが、ドイツの物理学者ブルクハルト・ハイムの理論でした。

ハイムの人生そのものが、ただならぬものでした。第二次世界大戦中の1944年、化学研究施設での爆発事故で、彼は両手と、聴力や視力の多くを失っています。それでも物理学の道をあきらめず、戦後に学位を取り、生涯をかけて一つの難題に挑みました。量子力学と重力という、現代物理学が別々に扱ってきた二つを、一つの理論で結ぶことです。

ハイムがたどり着いたのは、宇宙を私たちが知る4つの次元ではなく、12の次元でとらえるモデルでした。その上位の次元には、物質やエネルギーではなく「情報」や意味そのものが宿っている、という考え方です。

シュミークは晩年のハイムと直接会い、議論を交わす機会を得ました。そして、この12次元のモデルこそが「情報場」を説明する土台になる、と確信します。人の状態にまつわる情報は、体に現れる前に、この上位の次元に置かれている。タイムウェーバーの理論的な支柱は、ここから来ています。

ただし、ハイムは大学の枠の外で、ほとんど一人で研究を続けた人物でした。その成果はドイツ語の自費出版物や小さな専門誌で発表されるのみで、自ら考案した独特の数式表記を用いたため、ほかの研究者が読み解くことも簡単ではありませんでした。

正式な査読を経た論文は、生涯にほぼ一本にとどまります。物理学の主流がこの理論を採り入れることは、ついにありませんでした。「情報場の科学的な基盤」とされているのは、物理学の世界がそもそも受け入れてこなかった理論なのです。

「体に出る前に、情報が乱れる」という考え方 ―― 仕組み

では、この理論のうえで、機器はどう働くと説明されているのでしょうか。

情報場医学と呼ばれる考え方の中心には、一つの仮説があります。臓器に目に見える病変が現れる前には、まず働きの乱れがあり、その乱れよりもさらに前に、情報のレベルでの乱れが起きている。そういう順番だ、という見立てです。

だとすれば、いちばん手前にある情報の層を読んで整えれば、病気が形になる前に手を打てる、という話になります。

実際の流れも、この筋書きに沿っています。顔写真や生年月日といった個人の情報を手がかりに、システムが情報場を「スキャン」し、膨大なデータベースと照らし合わせて、乱れている項目を洗い出す。そこには体の状態だけでなく、感情や、チャクラ、カルマといった項目まで含まれる、とされます。

読み取った乱れには、特定の周波数を送り込んで整える。読み取る「分析」と、整える「調整」の二段構えです。

たとえるなら、建物にひびが入る前の設計図の段階で、図面のほうを手直ししておく。そんなイメージで語られる仕組みです。ただしこれは、あくまで機器がそう説明している働きであって、その通りに情報を読み書きできることが確かめられているわけではありません。

「周波数で整える」という古い夢 ―― 発想の系譜

体の不調を「周波数の乱れ」としてとらえ、別の周波数で整える。この発想そのものは、実はかなり古くからあるものです。

さかのぼると、20世紀初頭のアルバート・エイブラムスや、ロイヤル・ライフといった人物の周波数医療機器に行き着きます。健康な組織と病んだ組織は、それぞれ違う周波数で「振動」している。だからその周波数を測れば診断でき、正しい周波数を当てれば整えられる。こうした考え方は、バイオレゾナンスやラジオニクスといった名前で、かたちを変えながら繰り返し現れてきました。

この発想に対する、主流の科学の側の答えははっきりしています。カナダ・マギル大学の科学情報部門は、シュミークが後に手がけた消費者向けの小型機器を評して、古いオカルト的な医療機器が新しい装いで戻ってきたものだ、と指摘しました。医療者でもある科学的懐疑論者のデイビッド・ゴースキーは、傷んだ組織が固有の「振動特性」を持つという前提そのものに、生物学的な裏づけがないと批判しています。

健康な細胞と病んだ細胞が違う周波数で振動している、という考えには、確立した根拠がありません。それでもこの発想が世代を超えて姿を現すのは、「体を測って、周波数で整える」という夢が、それだけ長く人を惹きつけてきたからでもあります。

認められた部分と、認められていない部分 ―― 科学が引く線

ここまで見てくると、この機器には性質の違う二つの面が同居していることが分かります。

一つは、実際に医療機器として認証されている面です。アメリカのFDAは、タイムウェーバーを「クラスII」の電動筋肉刺激装置および経皮的電気神経刺激(TENS)として認可しています。整形外科などにある低周波治療器と同じ系統で、認められた用途も、痛みの緩和や筋肉の再教育、血行の促進といった電気刺激の働きに限られます。欧州でもCEマークの対象です。

微弱な電流を流すこの物理療法は、19世紀の生体電気研究に連なる、確かな一分野です。

もう一つは、12次元の情報場や、チャクラ、カルマの調整といった面です。FDAも欧州の認証機関も、この部分を評価したわけではありません。販売する側の説明書きにも、「情報場の存在やその分析は、科学的証拠の不足を理由に現代科学からは認められていない」と、自ら明記されていることがあります。日本の薬機法のもとでも、認証の範囲を超えて「病気が治る」とうたうことはできません。

だから「医療機器」という言葉は、この機器のうち電流を流す部分にかかっているのであって、情報場という発想のほうは、科学の線の外側に立っています。認証された物理療法と、査読を経なかった一つの世界観とが、一台の機械に同居している。これが、タイムウェーバーという装置の姿です。

シュミークの試みは、物質と意識をつなごうとする、数十年がかりの真剣な探求でした。科学と精神を一つに束ねたいという願いは、人類が長く抱いてきたものでもあります。

ただ、束ねたいという願いの強さは、その橋が本当に架かっていることまでは保証しません。どこまでが組み上げられ、試され、確かめられた部分で、どこからが信じられている部分なのか。その境目を知っておくと、きらびやかな説明を前にしても、対象をそのままの姿で眺められるようになります。

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