食物繊維は体にいい。そう聞いて、ごぼうや玄米、オートミールを増やしてみたら、かえってお腹が張って苦しくなった。そんな経験のある方も多いはずです。
便秘の日もあれば、ちょっとしたことでお腹がゆるくなる日もあります。腸の調子は、繊維をただ増やせば整う、というほど単純ではありません。
近年、こうしたデリケートなお腹の悩みに向く食物繊維として知られてきたのが、グアーガム分解物です。海外や学会では英語の頭文字をとってPHGG(Partially Hydrolyzed Guar Gum)と呼ばれます。ここでは、この繊維がなぜ便秘にも下痢にも働くのかを、順にほどいていきます。
高すぎる粘度が、長らく壁だった――グアーガムからPHGGへ
もとになるのは、インドやパキスタンの乾燥地帯で育つマメ科の「グァー豆」です。その豆からとれる水溶性の多糖類がグアーガムで、水に溶かすと少量でもとろりと強い粘りが出ます。アイスクリームなどの増粘剤として使われてきた成分です。
このグアーガムには、コレステロールを下げる、食後の血糖の上がり方をゆるめる、といった報告が古くからありました。ただ、粘度が高すぎるという弱点があります。水に溶かすとドロドロになり、食物繊維として十分な量をとろうとすると飲み込みにくく、食品にも混ぜにくい。せっかくの働きを、日常で活かしづらかったのです。
そこで、酵素でグアーガムの主鎖を適度に切り、粘りだけを落とす加工が生まれました。こうしてできたのがグアーガム分解物、PHGGです。分子量でいうと、もとのグアーガムは約30万〜50万、PHGGは平均で約2万ほどまで下げられています。
粘りは消えても、腸に届いてからの働きはしっかり残ります。無味無臭で水にさっと溶け、コーヒーにも味噌汁にも、炊くご飯にも、味を変えずに混ざります。この扱いやすさから、PHGGは30年以上前に生まれて以来、医療や介護の現場、とくに管を通して栄養をとる経管栄養の場面で使われ続けてきました。
腸の奥で「短鎖脂肪酸」に変わる
水溶性食物繊維は、人の消化酵素では分解されず、大腸まで届きます。そこで待っているのが腸内細菌で、繊維はビフィズス菌などのエサになります。
細菌が繊維を発酵させると、酢酸・プロピオン酸・酪酸といった短鎖脂肪酸が生まれます。なかでも酪酸は、大腸の細胞にとって主要なエネルギー源です。腸の壁を動かす燃料を、腸内細菌が現場で作ってくれる、というイメージが近いかもしれません。
短鎖脂肪酸は腸の中を弱酸性に傾け、有用な菌が優勢な環境をつくります。PHGGをとった人の便を調べると、ビフィズス菌や酪酸をつくる菌が増えていたと報告されています。PHGGは、この酪酸をとくに多く生み出しやすい繊維として知られています。
便秘にも、ゆるいお腹にも――双方向に働く「調整役」
短鎖脂肪酸は、腸の蠕動運動をうながして便通を助けます。その一方で、腸から体への水分の吸収を促し、ゆるくなった便を整える働きもあります。押し出す方向と、締める方向。相反する二つに同時に関わるため、PHGGは便秘と軟便のどちらにも働く「調整役」として位置づけられています。
便秘傾向のある成人50名にPHGGを1日5.2g、2週間とってもらった試験では、とらなかった場合に比べて排便の回数と量が有意に増えたと報告されています。こうした根拠をもとに、PHGGは機能性表示食品の関与成分として、便通改善・軟便改善・腸内環境改善のヘルスクレームが受理されています。
刺激の強い下剤が腸を無理に動かすのとは、働き方が異なります。腸そのものの環境を整えて動きを助けるため、自然なリズムを取り戻すサポートとして使いやすい繊維です。
高発酵なのに、ガスで張りにくい――穏やかな発酵と低FODMAP
腸内細菌によく利用される繊維なら、その分ガスも増えて張りそうに思えます。ところが、PHGGはそうなりにくい繊維です。
理由は、発酵の「速さ」にあります。PHGGは細菌に利用されやすい高発酵性でありながら、分子量が大きいぶん、腸の中でゆっくりと発酵が進みます。一度に大量のガスが出にくいため、お腹の張りや膨満感が起きにくいのです。
冒頭の、ごぼうやオートミールでお腹が張った感覚。あれは発酵の速い繊維で一気にガスが増えたことが一因です。PHGGは、発酵の速さで腸を刺激しやすいイヌリンやオリゴ糖とは、この点で性格が違います。
実際、PHGGは発酵性食品の負担を抑えたい人向けの低FODMAP食品として、オーストラリア・モナッシュ大学の認証を受けている数少ない食物繊維でもあります。過敏性腸症候群(IBS)など、お腹がデリケートな人にも取り入れやすい理由が、この穏やかな発酵にあります。
食後の血糖の山を、なだらかに
PHGGの働きは、腸の中だけにとどまりません。食後の血糖の上がり方にも関わります。
繊維が胃から腸への食べ物の移動をゆるやかにし、糖の消化・吸収のスピードを落とします。その結果、食後に血糖が急に跳ね上がるのを抑える方向に働きます。
成人56名がご飯を食べた試験では、PHGGを3g一緒にとった場合のほうが、食後の血糖の上昇がゆるやかだったと報告されています。この作用も、機能性表示食品のヘルスクレーム(食後血糖値の上昇抑制)として受理されています。
コレステロールについても、もとのグアーガムの時代から低下の報告があります。繊維が腸の中で胆汁酸と結びついて排出をうながすと、肝臓はその分を補うために血液中のコレステロールを使って新たな胆汁酸を作ります。結果として、血中のコレステロールが下がると考えられています。
腸の外へ広がる研究――肌と、こころ
腸内環境が全身の健康とつながっていることが分かってきたことで、PHGGの研究は腸の外へも広がっています。まだ研究段階の話ですが、腸の外への広がりを二つ挙げます。
一つは肌です。健常な成人にPHGGを1日5g、プラセボと比べた試験では、PHGGをとった群で頬の皮膚の水分量が増え、乾燥しやすい時期の肌のバリア機能(水分の逃げにくさ)が改善したと報告されています。腸で作られた短鎖脂肪酸が全身の炎症をおだやかにすることが、肌にも及ぶのではないか、という見方です。
もう一つは、こころの領域です。健常者60名を対象にした8週間の試験では、PHGGをとった群で腸内環境が整うとともに、睡眠の質の改善や、仕事・勉強へのやる気の維持がみられたと報告されています。腸と脳が互いに影響し合う「脳腸相関」を介した可能性が指摘されていますが、いずれもさらなる検証を待つ段階です。
取り入れ方――少しずつ、続ける前提で
PHGGは無味無臭で水に溶けやすく、飲み物やスープ、料理に混ぜても味や香りをほとんど変えません。不足しがちな水溶性食物繊維を、1日5g前後で手軽に補える点が使いやすさです。
ただ、数日で劇的に変わるものではありません。腸内細菌のバランスが入れ替わり、短鎖脂肪酸が安定して作られるようになるまでには、数週間から数か月の継続が前提になります。腸の環境を、時間をかけて少しずつ整えていくイメージが近いはずです。
お腹がデリケートな方は、ごく少量から始めて、体の反応を見ながら量を調整していくとよいでしょう。なお、持病のある方や体調に不安のある方は、無理のない範囲から始め、必要に応じて医師に相談しながら進めると安心です。



