朝、起きてすぐ。腕にカフを巻いて、ボタンをひとつ。表示された数字を見て、「うん、今日も大丈夫」とほっとする——血圧を気にかけている方なら、こんな習慣が身についているかもしれません。
その数字は、たしかに「いま、この瞬間」の血圧です。では、仕事で気が張っているとき、渋滞でイライラしているとき、あるいはぐっすり眠っている真夜中の血圧は——いったい、どうなっているのでしょう。
見えていないのは、測っていない時間の血圧
そもそも、血圧は一日中ずっと同じではありません。体を動かせば上がり、リラックスすれば下がる。気温や食事、ちょっとした緊張でも、こまやかに揺れています。だからこそ近年は、病院で一度だけ測るより、自宅で朝と晩に続けて測る「家庭血圧」が大切だとされてきました。
ただ、その家庭血圧にも、ひとつだけ弱点があります。測れているのは、あくまで「イスに座って測ったその瞬間」だけ、ということです。裏を返せば、一日の残りの大半は、記録に残っていません。
やっかいなのは、その空白のなかに「見えにくい高血圧」が隠れていることです。たとえば、病院で医師を前にすると緊張して高く出る「白衣高血圧」。
逆に、診察室では正常なのに、職場や家庭ではこっそり高くなってしまう「仮面高血圧」。どちらも、決まった時間・決まった場所でしか測らないやり方では、なかなか正体をつかめないと指摘されています。
さらに、多くの専門家が警戒しているのが、起きがけの急上昇です。明け方から午前中にかけて血圧がぐっと跳ね上がる「モーニングサージ」と呼ばれる時間帯は、心筋梗塞や脳卒中が起こりやすいと報告されています。ちょうど、目覚めて動き出す前の、まだ布団のなかにいる時間帯です。
日本では、高血圧の人はおよそ4,300万人。3人に1人という計算になります。しかも、そのうち自分の高血圧に気づいていない人が相当数いると推計されています。自覚症状がとぼしい——だからこそ、脅すためではなく、静かに数字で見えるようにしておくことに意味があるわけです。
手首のバンドに、本物の「カフ」が隠れている
ここで、素朴な疑問がわいてきます。「そもそも、時計で血圧なんて本当に測れるの?」
じつは、多くのスマートウォッチが表示する血圧は、光センサーで脈の波を読み取り、そこから値を「推定」したものです。便利ではありますが、あくまで推定です。
ときどき正しい血圧計と照らし合わせる校正が必要だったり、肌の状態や測る位置によって誤差が出やすかったり、といった弱点も知られています。
いま注目されているのは、その常識をひっくり返すアプローチです。たとえば「HUAWEI WATCH D2」というモデルは、病院や家庭にある腕帯タイプの血圧計とまったく同じ「オシロメトリック法」という仕組みを採用しています。
カギは、バンドの内側にこっそり組み込まれた、うすいエアバッグ(カフ)と超小型のポンプ。測定を始めると、このポンプが空気を送り、手首をきゅっと締めつけていきます。
そして、いったん止めた血流がふたたび流れ出すときに生まれる、血管のかすかな振動を圧力センサーで読み取り、そこから血圧を割り出すのです。
つまり、光をあてて「たぶんこのくらい」と見積もるのではなく、実際に手首を締めて「じかに測る」。腕帯の血圧計を、そのまま腕時計のサイズまで凝縮した——そんなイメージが近いかもしれません。
血圧計としては日本の管理医療機器の認証を受けており、あわせて心電図(心房細動の兆候を補助的に調べる機能)も、日本のプログラム医療機器として承認を取得しているとされています。
ふだん使いの工夫も凝らされています。画面を何度かタップするだけで、血圧に加えて心拍数や血中酸素、ストレスの目安といった複数の指標を、90秒ほどでまとめて確認できる機能も用意されています。
心電図のほうも、反対の手の指をボタンにそっと当てて30秒ほど待つだけ。堅苦しい検査というより、朝の身支度のついでに手首を眺める、くらいの手軽さに寄せてあります。測った値はスマートフォンのアプリに自動でたまっていくため、手帳に書き写す手間もいりません。あとから折れ線グラフで振り返れば、自分の血圧の”クセ”も見えてきます。
眠っている間の血圧まで、そっと記録する
このデバイスがとりわけ面白いのは、あらかじめ設定しておけば、日中はもちろん、眠っている間も自動で血圧を測ってくれる点です。医療の世界で「24時間血圧測定(ABPM)」と呼ばれてきた検査に近いことを、手首の時計だけでこなそう、というわけです。
使い方はシンプルで、アプリで測定プランを組んでおくだけ。たとえば日中は数十分おき、夜は一時間おき、といった間隔を決めておくと、その時刻になるとウォッチが静かにカフを膨らませ、ひとりでに測ってくれます。
なぜ、寝ているあいだの血圧までわざわざ測るのでしょうか。健康な人の血圧は、ふつう睡眠中に日中より1〜2割ほど下がるとされています。
ところが、夜になっても下がらないタイプや、逆に上がってしまうタイプの人がいて、そうしたパターンは心血管のトラブルと結びつきやすいと報告されています。夜の血圧は、自分ではまず気づけない領域です。だからこそ、そっと記録してくれる存在の価値が出てきます。
これまでも、医療機関が貸し出す24時間血圧計はありました。ただ、腕に大きなカフを巻き、記録装置をぶら下げたまま眠るのは、なかなかの負担。ポンプの作動音や締めつけで、かえって眠りが浅くなってしまうこともありました。
軽い腕時計のかたちでそれが完結するなら、ふだんに近い状態のデータが取りやすくなる——ここは大きな前進と言えそうです。バッテリーも、1日に何度か測る使い方で1週間近くもつとされ、充電のことを忘れて着けっぱなしにしておける、という安心感につながっています。
ひとつ、正直にお伝えしておきたいことがあります。この睡眠中の自動測定は、便利な機能ではあるものの、メーカーの説明では管理医療機器としての認証の範囲外とされています。診断のためのものではなく、あくまで日々の自己管理の手がかりとして受け止めるのが、正確な向き合い方です。
「時計で測れる」を、どこまで信じていいのか
便利なだけに、限界もきちんと知っておきたいところです。
血圧は、腕の高さによって測定値が変わってしまう性質があります。手首が心臓より低ければ高めに、高ければ低めに出る。そのため測定中は、時計をした腕を胸にあて、心臓と同じ高さに保って、じっと静止している必要があります。歩きながら、運動しながら、といった「動いている最中」の正確な測定は、構造上むずかしいとされています。
手首の太さにも条件があります。一定の範囲から外れると、カフがうまく締めつけられず精度に影響が出るため、購入後にサイズをきちんと合わせる初期設定が欠かせません。ここをおろそかにすると、せっかくの実測の強みが生きてこないわけです。
「病院で測るより、時計のほうが少し低めに出る」という声もあります。ただ、これは不具合というより、白衣高血圧が取り除かれた、よりリラックスした状態を映しているのかもしれません。
実際、こうした端末は医療の現場でも試され始めています。ある病院では、入院患者に着けてもらい、看護スタッフが測定や記録に費やしていた手間を減らしながら血圧を見守る、という実証実験も行われました。長く着けていられるバッテリーの持ちが、その導入を後押ししたと伝えられています。
大切なのは、1回の数値の細かな正確さよりも、上がり下がりの流れを長い目で追えること。そう考えると、この種のデバイスの本当の使いどころが見えてきます。
どんな人の、どんな場面で生きるのか
では、こうした血圧計つきの時計は、どんな人に向いているのでしょうか。まず思い浮かぶのは、健診で血圧を指摘されたけれど、毎朝きちんと測る習慣まではなかなか続かない、という方です。腕にはめておくだけで測るきっかけが増えるなら、「測り忘れ」というハードルそのものが下がります。
血のつながった家族に高血圧の人がいて、自分もそろそろ気になり始めた、という方にも相性がよさそうです。数値の高い低いで一喜一憂するためではなく、自分の平常運転を知っておく——そのための「ものさし」として使う、という向き合い方が、いちばん肩の力が抜けます。
反対に、すでに医師の管理のもとで治療を受けている方は、まず主治医に一言かけてから使い始めると安心です。手元にたまっていく記録は、診察のときに医師と話すきっかけにもなってくれます。
それでも、「測るハードルが下がる」ことの意味
手首の時計で、身がまえずに、ときには眠ったままで測れる。この「ハードルの低さ」こそが、いちばんの価値です。専用の機器を取り出して、カフを巻いて……という手間が消えれば、測ることは特別なイベントではなく、ただの習慣になっていきます。続けられる健康管理は、たいてい「無理のない健康管理」です。
価格はおよそ5万円台から6万円台。決して安い買い物ではありませんが、血圧という一生つきあう数字を、暮らしのなかで気軽に見守れると考えれば、選択肢のひとつになりえます。



