深部体温センサー「CORE2」——暑さを"測って味方につける"ヒートトレーニング入門

深部体温センサー「CORE2」——暑さを"測って味方につける"ヒートトレーニング入門

夏の朝、いつもと同じコースを、同じペースで走り始めたはずなのに、途中から急に脚が重くなり、心拍だけがぐんぐん上がっていく——そんな経験はありませんか。気力の問題でも、練習不足でもありません。犯人は、体の内側にこもった「熱」かもしれないのです。

私たちの体は、動くほどに熱をつくり出します。運動で生まれるエネルギーの多くは、そのまま熱に変わって体の中にたまっていきます。走るほどにエンジンが熱を持つ自動車のようなものです。

そして体温が上がりすぎると、人体は自分を冷やすことを最優先し、皮膚のほうへ血液を回し始めます。その結果、肝心の筋肉に届く血液と酸素が減り、心拍が上がってペースが崩れてしまいます。ラジエーターの冷却に手いっぱいで、タイヤに回す力が細っていく——ちょうど、そんな状態です。

ここで一つ、素朴な疑問が浮かびます。暑さは、ただ避けるしかない「敵」なのでしょうか。実は近年、この熱を測り、読み解き、むしろ味方につけようという発想が広がってきています。

その中心にあるのが、スイスの greenTEG 社がつくった、針も飲み込みもいらない深部体温センサー「CORE」シリーズです。今回は最新モデル「CORE2」を入り口に、その考え方をたどってみましょう。

体の芯の温度は、なぜそれほど大事なのか

脇の下や額で測る体温は、あくまで「表面」の温度です。日差しや風、汗が乾くときのひんやり感に、簡単に左右されてしまいます。ですから、内臓のそばの温度——深部体温とは、意外とズレてしまうのです。スポーツの世界で本当に知りたいのは、この体の芯の温度のほうです。

これを正確に測るのは長らく難物でした。直腸にプローブを入れる、あるいはセンサー入りのカプセルを飲み込む。どれも正確ではあるものの、気軽に試せる方法とは言いがたいものでした。CORE2は、こうした負担の大きいやり方に代わる選択肢として登場しました。

「熱の流れ」を読むという発想

CORE2はどうやって体の芯の温度を知るのでしょうか。鍵は「熱流束(ねつりゅうそく)」という考え方にあります。

鍋の中の湯の温度を直接のぞくのではなく、鍋の外側から「どれだけ熱が逃げ出しているか」を感じ取る。壁に手をかざして、その向こうにある熱源の大きさを推し量るようなもの、と思ってください。CORE2は、皮膚の表面温度に加えて、体の奥から表面へ、そして機器を通って外へ逃げていく熱の量をとらえます。

もっとも、逃げていく熱の量から芯の温度をそのまま言い当てられるわけではありません。ここで働くのが、機械学習のアルゴリズムです。100万を超えるデータで学習させ、皮膚まわりの情報から体の奥の温度を推定する——そういう設計だと説明されています。

胸に着ける心拍計を組み合わせると、血流の動きという手がかりが加わり、精度はさらに上がるとされています。

精度そのものについては、greenTEG 社が具体的な数字を公表しています。カプセル型など基準となる測定法と比べたとき、平均的なズレはおよそ マイナス0.01〜プラス0.23℃の範囲に収まると説明しています。

医療用体温計の国際規格(ISO 80601-2-56)に沿った評価でも、平均絶対偏差0.21℃という値が示されたと報告しています。かなり小さな誤差です。

ただし CORE2 は病気を診断するための医療機器ではなく、トレーニングや体調管理を助ける道具である——この線引きは、押さえておきたいところです。

「熱ストレス指数」で、体の頑張りを見る

CORE2の中心にある指標が、「熱ストレス指数(Heat Strain Index、以下 HSI)」です。おもしろいのは、これが深部体温の高さそのものではなく、「体が熱を逃がすために、どれだけ頑張っているか」を映す数字だという点です。

たとえば、同じ深部体温38.5℃でも、状況次第で体の負担はまるで違ってきます。冷たい雨の中を走っているなら、皮膚から熱をどんどん捨てられるので、体はさほど苦労しません。

ところが高温多湿の中では、体の芯と皮膚の温度差が縮まり、熱の逃げ場が狭くなってしまいます。すると体は、心拍を跳ね上げ、大量の血液を皮膚へ送り続けて、なんとか冷やそうとします。同じ体温でも、後者のほうがずっと苦しいわけです。この「苦しさ」を数値にしたのが HSI です。

HSIは0から10ほどのスケールで示され、心拍のトレーニングゾーンのように、いくつかの領域に分けて使います。負担がごく軽い領域、ほどよい領域、そして体が暑さに慣れていく反応を引き出しやすい「鍛えどころ」の領域があります。

さらにその上には、熱中症などのリスクが高まる、踏み込みすぎ注意の領域が控えています。ふだんの練習では鍛えどころの領域をねらい、レース本番では逆にこの数字を見ながら、水をかぶるタイミングを計って負担の軽い側へ抑えていきます。同じ道具を、攻めと守りの両方に使い分けるわけです。

熱を味方につけると、体の中で何が起きるか

では、暑さに慣れるとは、具体的にどういうことなのでしょうか。

CORE2のアプリは、1回ごとの熱負荷を0〜10の「その日のスコア」で示し、その積み重ねを「暑熱順化スコア」として0〜100%で見せてくれるとされています。数字が上がっていく裏側では、体の中で静かな変化が進みます。

血液中の血漿(けっしょう)——血のうち液体の部分が増えて、めぐる血液の量そのものが増えていきます。汗をかき始める体温が下がり、より早く、より多く汗をかけるようになります。

しかも、汗と一緒に失われるミネラルは、むしろ節約されるようになるとされています。体が少しずつ「暑さ仕様」に作り替えられていく、というイメージです。

その効果として、10日ほどの適切なトレーニングで最大酸素摂取量やパワー出力が最大8%ほど高まり、長く続ければヘモグロビンが2.5%ほど増えたとする研究結果も報告されています。

もちろん、出方には個人差があります。この数字がそのまま誰にでも当てはまる、という話ではありません。それでも、暑さがただの障害ではなく、鍛えれば応えてくれる相手だと分かると、夏のトレーニングの見え方が少し変わってきます。

まず、自分の「ちょうどいい暑さ」を知る

とはいえ、やみくもに暑くすればいい、という単純な話ではありません。平熱に個人差があるように、適応を引き出す体温の目安も人によって違うとされているからです。そこで勧められているのが、自分の適温を探る「ヒートランプテスト」です。

やり方はこうです。冷房も扇風機も止めた部屋で、機能的作業閾値パワー(FTP、無理なく出し続けられる出力の上限の目安)の半分あたりから始め、20分ほどかけて少しずつ強度を上げていきます。深部体温が38.0℃に届いたところで、そのときの心拍と出力を書き留めます。

あとはその出力を粘れるだけ粘り、熱の疲れで2割ほど落ちたら終了です。このテストで分かった38.0℃到達時の体温から、0.3〜0.5℃ほど低い範囲が、あなたにとっての「ちょうどいい暑さ」の目安になるとされています。ここを外して暑くしすぎれば、ただ消耗するだけになりかねません。逆に涼しすぎれば、体は慣れる必要を感じないのです。

無理なく続けるための、いくつかのコツ

実際のトレーニングは、週に2〜3回、1回45〜60分ほど(長くても90分くらい)を目安に、目標の体温を保つのが基本とされています。ここで意外なのは、必ずしも強く追い込む必要はない、という点です。心拍を抑えたゆるめのペースでも、厚着をしたり暖房を使ったりして外から熱を足せば、体温は保てます。

運動のあとにサウナや熱めのお風呂で温まる、という「動かずに温める」やり方もあります。筋肉を余計に痛めずに済むぶん、賢い選択かもしれません。あるトップ選手も、数値を細かく見ながら「きつすぎず、熱すぎず」の一点を探っていたと紹介されています。負荷は、多ければいいというものではないのです。

気をつけたいのは、せっかく得た慣れが、驚くほど早く抜けていくことです。熱の刺激をやめると、順化はおよそ1日2.5%のペースで下がり、5〜6週間もするとほぼ振り出しに戻ると報告されています。だからこそ、本番まで間が空くときは、週に1〜3回ほど体温を上げ直す「維持」のひと手間が効いてきます。

もう一つ、データを読むうえで知っておくと安心なのが「時間差」です。パワーや心拍は、強度を上げた瞬間に跳ね上がります。ところが深部体温は、そうはいきません。筋肉で生まれた熱が血液を伝って奥へ広がり、やがて皮膚の熱の流れとしてセンサーに届くまでに、数分の遅れが出るからです。血糖値をずっと測るセンサー(CGM)の数字が、実際の変化より少し遅れて動くのと同じです。ですから深部体温は、一瞬の値に一喜一憂せず、10分、20分という長さで「上がっているか、下がっているか」の流れとして眺めるのがコツです。

ふだんの相棒とつなぐ

CORE2は単体でも使えますが、いつものスポーツ機器とつなげると、ぐっと実戦的になります。今のところいちばん相性がいいのが Garmin で、対応するサイクルコンピューターや腕時計の画面に、深部体温・皮膚温度・HSIをそのまま映し出せるとされています。記録は後から心拍やパワーと重ねて振り返れるので、「あの登りで一気に熱がこもったな」といった復習もできます。Wahoo の機器ともつながり、ゾーンをグラフで見せる表示などが用意されています。

一方 Apple Watch との連携は、機器側の仕組み上の制約から、Garmin ほど自由には使えないのが今のところの実情のようです。研究の現場では、より細かくデータを取れる専用モデルも登場し、スポーツにとどまらず、睡眠や夜勤の人の体温リズムを調べる研究にも使われ始めていると報告されています。

暑さは、避けるだけのものではありません

深部体温という、これまで一部の選手しか手にできなかったものさしを、日々の練習で確かめられるようになった今、その答えは少し変わってきているようです。避けるだけでなく、測って、計画して、味方につける。かつて高地トレーニングが特別な切り札から当たり前の手段になっていったように、暑さとのつき合い方も、これから変わっていくのかもしれません。

ただし、ヒートトレーニングは、体の芯の温度をわざと上げる取り組みでもあります。楽しみながら取り入れるためにこそ、無理は禁物です。心臓や血管、体温の調節にかかわる持病のある方、既往症のある方、その日の体調に不安のある方は、始める前に一度、かかりつけの医師に相談してみてください。

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