インドネシアが提供するデジタルノマドビザとは

インドネシア政府は2022年にB211Aビザの延長としてデジタルノマド向けの滞在資格を導入し、2023年にはさらに発展させた「セカンドホームビザ」を正式に開始しました。このビザはリモートワークを行う外国人がインドネシア、特にバリ島に長期滞在できることを目的としています。従来の観光ビザと大きく異なるのは、最長5年間の滞在が可能であり、インドネシア国外の収入源で働きながら合法的に滞在できる点です。
デジタルノマドビザの最大の魅力は、インドネシアの美しい自然環境と比較的低い生活コストを享受しながら、自国や他国の企業のために働き続けられることです。このビザはインドネシア国内の企業に雇用されることを想定していません。むしろ、外国企業との雇用関係を維持したまま、または自営業者として国外から収入を得ることを前提としています。これにより、インドネシア国内での課税問題も複雑化せず、外国人労働者と現地労働市場との競合も避けられるよう設計されています。
申請資格として、申請者は毎月少なくとも2,000米ドル相当の安定した収入を証明する必要があります。この収入基準は、バリ島での快適な生活水準を維持するために十分と考えられる金額です。また、有効なパスポート(残存期間が通常36ヶ月以上)、健康保険(インドネシア滞在中をカバーする国際保険)、そして犯罪歴がないことの証明も求められます。これらの条件は、インドネシア政府が質の高い長期滞在者を選別し、地域社会への貢献を促進するための基準となっています。
ビザ申請の具体的な手順と必要書類

バリ島のデジタルノマドビザ申請プロセスは、オンラインと対面での手続きを組み合わせた形で進行します。まず公式ウェブサイトでオンライン申請を開始し、申請フォームには個人情報、滞在予定期間、職業情報などを正確に入力する必要があります。特に職業欄では、リモートワークの内容と雇用状況を明確に説明することが重要です。オンライン申請が受理されると、申請番号が発行され、これを使って次のステップに進みます。
必要書類の準備は申請の成功を左右する重要な要素です。基本的に求められる書類は、有効なパスポート(写真付きページのコピー)、証明写真、財政証明書(銀行取引明細や雇用契約書など月2,000米ドル以上の収入を証明するもの)、健康保険証書(インドネシア滞在全期間をカバーするもの)、インドネシア国内の滞在先証明、そして帰国便の予約確認です。これらの書類は全てインドネシア語または英語で準備し、必要に応じて公証翻訳を添付します。特に財政証明は審査で重視されるため、過去6ヶ月分の銀行明細など複数の証拠を用意すると良いでしょう。
申請書類の提出後、インドネシア入国管理局による審査期間は通常2〜4週間程度かかります。この間、追加書類の提出を求められることもあるため、連絡先情報を常に確認可能な状態にしておくことが大切です。ビザ承認後は、指定された在外インドネシア大使館・領事館で実際のビザスタンプを取得するか、一部の国籍では到着時ビザとして入国時に取得することも可能です。ただし、事前に承認を得ておくことで入国時のトラブルを避けられるため、出発前に全ての手続きを完了させることをお勧めします。
バリ島での住居探しと初期セットアップのポイント

バリ島での住居探しは、ビザ申請と並行して計画すべき重要な要素です。バリ島内でも地域によって雰囲気や生活環境が大きく異なります。ウブドは文化的な体験を求める人に人気がある一方、チャングーやウルワツはサーフィン愛好家やビーチライフを楽しみたい人向けです。セミニャックやクタはナイトライフが充実していますが、サヌールやヌサドゥアは比較的落ち着いた環境を提供しています。初めてのバリ滞在なら、短期間の宿泊施設を確保した上で現地到着後に複数の地域を実際に見て回り、自分に合った場所を見つけることをお勧めします。
住居の契約形態は主に短期(1〜3ヶ月)、中期(6ヶ月)、長期(1年以上)の三種類があります。長期契約ほど月額賃料は安くなる傾向がありますが、柔軟性は低下します。物件の価格帯は非常に幅広く、シンプルなスタジオタイプのアパートメントなら月額300〜500米ドル程度から、プール付きのヴィラになると1,000〜3,000米ドル以上まで様々です。契約前には、インターネット接続の品質、電力の安定性、水の供給状況、セキュリティ体制などを必ず確認しましょう。特にリモートワークを行う場合は、安定した高速インターネット接続が不可欠です。
現地での生活基盤を整えるには、現地銀行口座の開設、現地SIMカードの取得、そして基本的な生活必需品の調達が必要です。インドネシアの主要銀行(BCA、Mandiri、BNIなど)は外国人向けの口座開設サービスを提供していますが、必要書類としてKITAS(一時滞在許可証)が求められることが多いため、デジタルノマドビザ取得後に手続きを進めるのが良いでしょう。それまでは国際的に利用可能なクレジットカードや現金での支払いが基本となります。通信環境については、Telkomsel、XL、Indosatなどの主要キャリアから選べます。基本的な家具や家電が揃っていない物件の場合は、現地のショッピングモールや地元の市場で必要なものを調達できます。
長期滞在者のためのビザ更新と法的義務

デジタルノマドビザの有効期間は最長5年間ですが、定期的な更新手続きが必要です。通常、最初の入国から60日後に最初の更新手続きを行い、その後は180日ごとに更新申請を行います。更新手続きはインドネシア入国管理事務所(イミグラシ)で行い、必要書類として滞在期間中の活動報告書、収入証明の更新版、現在の住所証明などを提出する必要があります。更新手続きは混雑を避けるため、期限の2週間前から開始可能です。期限を過ぎると1日あたりの罰金が発生するため、カレンダーにリマインダーを設定するなど、更新日の管理は慎重に行いましょう。
インドネシア滞在中は現地の法律や規則を遵守することが求められます。特に重要なのは、ビザの条件に違反しないことです。デジタルノマドビザはインドネシア国内の企業から直接収入を得ることを許可していないため、現地企業との雇用契約を結ぶことはできません。また、定期的に入国管理局への報告義務があり、住所変更時には届出が必要です。公共の場でのマナーや文化的な配慮も重要で、特に宗教施設訪問時の適切な服装や現地の慣習への敬意は、地域社会との良好な関係維持に不可欠です。
税金に関する理解も長期滞在者には重要です。インドネシアは183日ルールを採用しており、12ヶ月間のうち183日以上滞在した場合、税務上の居住者とみなされる可能性があります。ただし、デジタルノマドビザ保持者は特別な税制上の取り扱いを受けることがあり、外国源泉所得に対するインドネシアでの課税が免除される場合もあります。しかし、税法は複雑で変更される可能性もあるため、国際税務に詳しい専門家に相談することをお勧めします。また、母国との二重課税防止協定の内容も確認しておくべきでしょう。ビザの終了時や国外退去が必要になった場合の手続きについても理解しておくことが大切です。特に長期滞在後は所有物の処分や契約の解約など、出国前に完了させるべき事項が多くなるため、余裕をもった計画が必要になります。