海外での生活において、医療保険の確保は最も重要な準備事項の一つです。日本の国民健康保険のような手厚い医療保障制度がない国も多く、適切な保険選びが将来の安心につながります。本記事では、主要な移住先国における医療保険制度と、日本人移住者が知っておくべき医療保障についてご説明します。
各国の公的医療保険制度を理解する
イギリスではNHS(National Health Service)という国民保健サービスが整備されており、合法的な居住者であれば無料で基本的な医療サービスを受けることができます。カナダでは州ごとに医療保険制度が運営されており、例えばオンタリオ州ではOHIP(Ontario Health Insurance Plan)への加入が必須となります。オーストラリアではMedicare制度があり、永住者は加入することで公立病院での診療が無料となります。アメリカは公的医療保険制度が限定的で、基本的に民間の医療保険への加入が必要となります。このように、国によって医療保険制度は大きく異なります。
日本の健康保険の海外での扱い
日本の国民健康保険は、海外在住が決まった時点で原則として脱退する必要があります。ただし、海外赴任や留学など、最長2年までの一時的な海外渡航の場合は、「日本国内に住所を有さない場合の特例」を申請することで継続が可能です。この場合、海外で受けた診療の費用を後から払い戻してもらえる制度(海外療養費制度)を利用できます。ただし、払い戻される金額は日本の診療報酬点数表に基づいて計算されるため、実際の支払額とは差が生じる可能性があります。
海外での民間医療保険の選び方
海外の民間医療保険を選ぶ際は、補償内容、保険料、年齢制限、持病の有無による制約などを総合的に検討する必要があります。特に注目すべき点として、入院費用の上限額、外来診療の補償範囲、緊急搬送の対応、歯科治療の補償有無などが挙げられます。アメリカの場合、HMO(Health Maintenance Organization)やPPO(Preferred Provider Organization)など、保険の種類によって利用できる医療機関が制限される場合があるため、居住予定地域の医療機関ネットワークも確認が必要です。また、多くの国では雇用主を通じて医療保険に加入するケースが一般的ですが、自営業や退職後の場合は個人で加入する必要があります。
渡航前の準備と現地での医療機関の利用
海外移住に向けた医療面での準備として、まずは現地の医療制度について十分な情報収集を行いましょう。持病がある場合は、英文の診断書や処方箋を用意し、現地で同等の治療が受けられるか確認が必要です。また、日本語対応可能な医療機関のリストを事前に入手しておくと安心です。保険加入後は、緊急時の連絡先や保険証券番号を常に携帯し、家族とも共有しておくことをお勧めします。医療費の支払い方法は国や医療機関によって異なりますが、多くの場合、まず全額を支払い、後から保険会社に請求する形となります。スムーズな医療サービスの利用のため、ある程度の預金残高を維持しておくことも重要です。