UAEデジタルノマドビザとは - 制度の概要と背景

アラブ首長国連邦(UAE)は2021年3月、リモートワーカーとその家族がUAEに1年間滞在できるデジタルノマドビザを導入した。このビザは、世界中のリモートワーカーや起業家をUAEに誘致し、国の経済多様化を図る戦略の一環として位置づけられている。コロナ禍でリモートワークが普及する中、UAEはこの新たな働き方を積極的に受け入れることで、国の競争力を高めようとしている。
このビザプログラムの最大の魅力は、外国の雇用主のために働きながらUAEに合法的に居住できる点だ。従来の就労ビザでは現地企業との雇用契約が必要だったが、デジタルノマドビザではそれが不要になった。また、UAEはリモートワーカーに適した環境が整っている。最新のインフラ、高速インターネット、豊富なコワーキングスペース、年間を通じた温暖な気候、そして多様な文化体験が可能だ。
UAEデジタルノマドビザの有効期間は1年間で、条件を満たせば更新も可能である。ビザ保有者は国内の銀行口座開設、携帯電話契約、住居の賃貸など、現地生活に必要なサービスにアクセスできる。さらに、家族も同伴できるため、子どもの教育や家族全体の新たな生活体験も考慮した長期的な計画が立てやすい。
申請資格と必要書類 - 準備すべきものは何か

UAEデジタルノマドビザの申請には、いくつかの重要な資格要件がある。まず、年収5万米ドル以上のリモートワーカーであることが条件だ。雇用契約書または過去1年間の収入証明、銀行取引明細書などで証明する必要がある。フリーランスの場合は、クライアントとの契約書や過去の収入実績を提示することになる。また、有効なパスポート(残存期間6か月以上)、海外健康保険(UAEでの補償を含む)、現在の雇用証明書も必須だ。
申請に必要な書類としては、まず完全に記入された申請書フォームが必要となる。また、パスポートのカラーコピー、証明写真(白背景)、健康保険証書のコピー、現在の雇用契約書または事業証明書、過去3か月分の銀行取引明細書、犯罪経歴証明書(必要に応じて)を用意しなければならない。書類はアラビア語または英語で提出するが、他言語の場合は公認翻訳が必要となる。
申請手続きでは、まずUAE政府公式ウェブサイトまたは指定された代理機関を通じてオンライン申請を行う。申請フォームに記入し、必要書類をアップロードした後、申請料(約287米ドル)を支払う。審査には通常2〜3週間かかり、承認後にビザ発給のための指示が届く。最終段階として、UAEに入国する前に健康診断を受け、結果を提出することが求められる場合もある。
ビザ取得後の手続き - 入国から居住登録まで

ビザ承認後、UAEへの入国準備が始まる。入国時には、印刷したビザ承認書、パスポート原本、帰りの航空券(または継続旅行の証明)、滞在先の詳細(ホテル予約または住居契約)を用意する必要がある。入国審査ではビザ承認の確認が行われ、入国スタンプがパスポートに押される。
UAE到着後14日以内に、Emirates ID(身分証明書)の申請が必要だ。これはUAEでの公的な身分証明書で、銀行口座開設や携帯電話契約など多くのサービスで必要となる。申請はICP(アイデンティティ・市民権庁)のオフィスまたは指定サービスセンターで行い、生体認証(指紋や虹彩スキャン)が実施される。Emirates IDの発行には約1週間かかり、発行された身分証明書は指定された場所で受け取るか、追加料金で配送サービスを利用できる。
住居を確保したら、居住地の登録も必要だ。多くの場合、不動産会社やオーナーが手続きをサポートするが、自分で行う場合は地域の自治体オフィスで手続きする。水道・電気などの公共サービスの契約、インターネット接続の設定も早めに行うことが望ましい。UAEでは電子政府サービスが発達しており、多くの手続きはオンラインで完結する。政府公式アプリ「UAE PASS」をダウンロードしておくと、各種サービスへのアクセスが容易になる。
デジタルノマドビザ活用のヒント - 最大限に活かすために

UAEでのデジタルノマド生活を充実させるには、まず税務面での理解が重要だ。UAEには個人所得税がないが、日本など母国の税制上の義務は継続する場合が多い。日本の場合、海外居住者となるには非居住者要件(1年間のうち国内滞在日数が3か月以内など)を満たす必要がある。税務専門家に相談し、二重課税防止協定の適用など最適な税務戦略を立てることが賢明だ。
ネットワーキングもUAEデジタルノマド生活の鍵となる。ドバイやアブダビには多くのコワーキングスペースがあり、定期的なネットワーキングイベントが開催されている。Dubai Knowledge Park、DIFC Innovation Hub、Hub71などのビジネスハブでは、同じ志を持つ専門家や起業家と出会える機会が多い。また、LinkedInやMeetupなどのプラットフォームを活用し、UAEのデジタルノマドコミュニティに参加することも有効だ。
最後に、UAEの文化や習慣に対する理解も重要である。UAEは他の中東諸国に比べてリベラルだが、公共の場での行動には一定の規範がある。ラマダン月中の昼間の飲食制限や、控えめな服装の推奨などを尊重することが求められる。アラビア語の基本的な挨拶や表現を学ぶことも、現地の人々との良好な関係構築に役立つ。UAEは多文化社会であり、異なる文化背景を持つ人々と交流する貴重な機会を提供してくれる。この経験を通じて、グローバルな視野と異文化理解力を深めることができるだろう。