ドラッグストアの健康食品コーナーや、通販サイトで昔から並ぶ定番の棚。濃い緑色の小さな粒を見かけて、なんとなく体に良さそうだと感じたことのある方は少なくないはずです。
クロレラは、名前こそ広く知られていても、青汁とどう違うのか、そもそも何なのかと問われると、はっきり答えるのは意外にむずかしい素材でもあります。
そのクロレラが、ここ数年あらためて研究の対象として注目され、これまで知られていなかった一面まで見せ始めています。この記事では、栄養や吸収のしくみから最新の研究まで、クロレラという素材の中身をひととおり整理してご紹介します。
クロレラという、小さな緑藻
クロレラは、池や湖などの淡水にすむ、目に見えないほど小さな単細胞の緑藻です。太陽の光を浴びて光合成をしながら、速いスピードで分裂して増えていく、いわば水の中で暮らす小さな植物のような存在です。
その一つひとつの細胞のなかに、生きるために欠かせない栄養を豊富に蓄えているのが、最大の特徴です。健康食品としての歴史は長く、日本では戦後まもない時期から研究と利用が続いてきた、いわば元祖ともいえる素材です。
日本で親しまれているものの一つに、沖縄・石垣島で育てられる八重山クロレラ(ヤエヤマクロレラ)があります。亜熱帯の強い日ざしと島の豊かな水は、光合成で増える藻にとって理想的な環境です。
無菌の状態で育てた種を、屋外の大きな培養設備でていねいに増やしていく、手間のかかる方法で生産されています。葉緑素を豊富に含み、栄養バランスの良さから世界各国で使われており、2019年には藻類として世界で初めて、持続可能な生産を示す国際認証を取得しています。
「畑の肉」を上回る、栄養の密度
クロレラの大きな魅力は、栄養の密度の高さにあります。とりわけ豊富なのがたんぱく質で、乾燥重量のおよそ6割を占めるとされ、「畑の肉」と呼ばれる大豆(3割強ほど)を上回る割合です。
体づくりに欠かせない必須アミノ酸がバランスよくそろっているかを示すアミノ酸スコアも、肉や魚に並ぶ100点満点とされています。植物由来でありながら、量だけでなく質の面でも優れているのです。
筋肉の材料になるものから、日々の体調を支えるものまで、アミノ酸の種類が偏りなくそろっている点も特徴です。加えて糖質は控えめで食物繊維は豊富なため、無理なく栄養を補いたいときに向いた素材といえます。
魅力はたんぱく質だけではありません。血液のもとになる鉄、体内の数多くの反応を支えるマグネシウム、細胞の生まれ変わりに関わる葉酸といったミネラルやビタミンも、単体で抽出されたのではなく、天然のかたちでまとめて含まれています。
野菜を皮ごといただくように、素材の全体を余さず取り込む。この一物全体食(ホールフード)という考え方は、栄養が偏りがちな現代の食生活を静かに補ってくれる発想といえそうです。
長らくの弱点だった「吸収されにくさ」
ただし、これだけ栄養が詰まっていても、そのまま食べてすべてを吸収できるわけではありません。ここに、クロレラが長らく抱えてきた弱点がありました。
クロレラの細胞は、紫外線や乾燥といった厳しい自然環境から中身を守るために、丈夫で分厚い細胞壁に覆われています。この壁が硬いために、人の消化液だけではうまく分解しきれず、せっかくの栄養が、殻に閉じ込められたクルミのように、中身を取り出せないまま通り過ぎてしまうことがあったのです。
そこで工夫されたのが、細胞壁を細かく砕いたり、ひびを入れたりする加工です。壁にすき間ができれば消化液が内側まで届き、栄養を取り出しやすくなります。こうした処理をほどこすことで、クロレラの栄養は消化・吸収されやすさが大きく高まると報告されています。同じクロレラでも、どのような下処理がなされているかで体への届き方は変わるため、選ぶ際に見落とせないポイントといえます。
栄養を受け止める、腸との関係
栄養を届けたあとにも、クロレラには役割があります。その舞台となるのが腸です。クロレラには食物繊維が豊富に含まれており、消化されずに大腸まで届くと、腸内の善玉菌にとっての栄養源になります。
善玉菌が増えれば腸内環境は整いやすくなり、良い土壌に植物が根づいていくように、体の土台が支えられていきます。こうした、善玉菌のエサとなって働く成分はプレバイオティクスと呼ばれ、日々の体調を根本から支える存在として注目されています。
栄養そのものを届けるだけでなく、それを受け止める腸内環境まで整えてくれる点も、クロレラの見逃せない一面です。
近年の研究が示す、意外な一面
栄養源としての顔は古くから知られてきましたが、近年は少し違う角度からの研究も進んでいます。その一つが、カビ毒(マイコトキシン)との関係です。
マイコトキシンとは、一部のカビがつくり出す有害な物質です。穀類などに知らないうちに混じることがあり、加熱してもなかなか分解されません。同じ食品から複数のカビ毒が同時に見つかることもあり、食の安全という観点では、意外に身近で悩ましい問題でもあります。
クロレラは体内の有害な物質を排出する手助けをします。これまでにも、鉛などの重金属について、体外への排出を促す可能性がヒトなどの試験で示されてきました。
近年の研究は、その対象をカビ毒にまで広げたものといえます。ユーグレナ社と麻布大学の共同研究では、代表的なカビ毒であるデオキシニバレノールやオクラトキシンAに注目しました。試験管の中でクロレラと混ぜると、毒素がクロレラに吸着し、溶液中の濃度が減少しました。
さらにマウスを使った実験では、クロレラを一緒に与えた場合に、血液や尿の中の毒素の濃度が低く抑えられたと報告されています。クロレラが毒素と結びついて体内への吸収を抑え、そのまま体外へ送り出している可能性が示唆された、という内容です。続く研究では、このカビ毒によって悪化する皮膚のアレルギー症状が、クロレラをあわせて与えることでやわらぐ可能性も示されています。
錠剤の「添加物」とのつきあい方
クロレラは、粉を押し固めた小さな錠剤の形で売られていることがよくあります。成分表示を見て、「ステアリン酸カルシウム」「二酸化ケイ素」といった見慣れない名前に戸惑う方もいるかもしれません。
これらの多くは賦形剤と呼ばれる、製造を助けるための補助的な材料です。粉どうしを結びつけて割れにくい形に整えたり、機械のなかで粉が均一に流れるようにしたり、有効成分がごく微量のときに扱いやすい大きさへ整えたりと、錠剤を安定してつくるための役割を担っています。単なるかさ増しのために加えられているわけではありません。
安全性についても、たとえば二酸化ケイ素は、国際的な専門機関の評価で一日の摂取許容量をあえて定める必要はないとされており、適切に使う範囲では問題ないと判断されています。
一方で、余計なものを避けたいという声に応えるかたちで、賦形剤を使わない無添加打錠も登場しています。クロレラの粉だけに高い圧力をかけ、粉そのものが持つわずかな結合力で形を保たせる技術です。
中身が100%クロレラになるのが大きな魅力ですが、固めるための材料を使わないぶん、錠剤としては割れたり欠けたりしやすいという面もあります。
この割れやすさを、かえって余計なものが入っていない証と受け止める人もいます。どちらが優れているというより、選ぶ人の価値観が表れる部分だといえます。
地味な緑の粒の、これから
昔からある地味な緑の粒が、これほど長く体に良いとされてきたのは、たんぱく質やミネラルをまるごと蓄えた、栄養の豊かな素材だったからです。そこに近年、腸内環境との相性や、有害物質の排出といった新しい研究の芽も少しずつ加わりつつあります。



