久留米絣の製作工程〜職人の技と美意識が生み出す藍の織物 - HAPIVERI

久留米絣の製作工程〜職人の技と美意識が生み出す藍の織物

図案づくりと糸の準備

図案づくりと糸の準備

久留米絣の製作は、まず図案づくりから始まります。伝統的な模様を基本としながらも、職人の創意工夫によって新たな図案が生み出されてきました。図案は方眼紙に描かれ、経糸と緯糸のどの部分を染め、どの部分を白く残すかを精密に計算します。この図案設計は久留米絣の出来栄えを左右する重要な工程で、高度な計算力と芸術的センスが求められます。伝統的な模様には「十字花」「鮫小紋」「万字」などがあり、それぞれに意味や由来があります。

図案が決まったら、次に糸の準備に移ります。久留米絣には綿糸が使用されます。かつては地元で栽培された綿花から糸を紡いでいましたが、現在では品質の安定した綿糸を購入することが一般的です。糸は製織する前に、強度を高めるために「糊付け」という作業を行います。米や小麦から作られた糊を糸に塗布し、乾燥させることで、織りやすく丈夫な糸に仕上げます。この工程は気温や湿度に大きく影響されるため、職人の経験と勘が重要になります。

経糸(たていと)と緯糸(よこいと)は、それぞれ異なる準備工程を経ます。経糸は織機にセットするために「整経(せいけい)」という作業を行い、一定の長さと本数に揃えます。緯糸は括りや染色の後に「管巻き(くだまき)」という作業で、織りやすいように小さな管に巻き取ります。これらの準備作業は地味ですが、最終的な織物の質に大きく影響する基礎工程として、丁寧に行われます。

絣括りと染色の技術

絣括りと染色の技術

久留米絣の最も特徴的な工程が「絣括り(かすりくくり)」です。この作業は、図案に従って染色したくない部分を糸で固く括ることで、防染効果を生み出します。経絣の場合、経糸を織り機の幅に合わせて張り、図案に基づいて印を付け、その印に従って糸や布で括ります。緯絣の場合は、緯糸を束ねた状態で括ります。双糸絣では経糸と緯糸の両方を括るため、織り上げた時に模様が正確に交わるよう、精密な計算と高度な技術が必要です。

括り作業は非常に根気のいる作業で、一つの模様を表現するために何百、何千という括りを施すこともあります。この作業の精度が最終的な模様の美しさを決定します。括りに使用する糸は丈夫で締めやすく、染料が浸透しにくいものが選ばれます。熟練の職人は長年の経験から、適切な強さで括ることができ、模様の輪郭を鮮明に表現することができます。

括り終えた糸は、次に染色工程に移ります。久留米絣の染色には伝統的に藍染が用いられます。藍染は「建て藍(たてあい)」と呼ばれる発酵させた藍の染料を使います。藍の葉を発酵させて作られる天然染料は、化学染料とは異なる深みのある色合いを生み出します。染色は複数回に分けて行われ、徐々に色を濃くしていきます。染色の度合いや回数によって、さまざまな青の階調を表現することができます。染め上がった糸は水で洗い、括りを解いて乾燥させます。

機織りと仕上げの工程

機織りと仕上げの工程

染色を終えた経糸と緯糸は、いよいよ織りの工程に進みます。久留米絣の織りには、伝統的に「地機(じばた)」や「高機(たかばた)」と呼ばれる手織り機が使用されてきました。現在では手織りに加え、一部で力織機も導入されていますが、伝統的な技法を守る工房では依然として手織りが主流です。織り機に経糸をセットする「機拵え(はたごしらえ)」も重要な工程で、織りの質に大きく影響します。

織りの作業は、緯糸を通す「杼(ひ)」を左右に通しながら、足で踏む「踏木(ふみき)」によって経糸を上下に分け、緯糸を打ち込む「筬(おさ)」を操作するという複雑な動作の連続です。熟練の織り手はこれらの動作をリズミカルに行い、一日に一定量の織物を産み出します。織りの際には、経糸と緯糸の張力のバランスや打ち込みの強さなど、細かな調整が常に必要とされます。

織り上がった久留米絣は、最後に仕上げの工程を経ます。織りキズの修正や検品を行い、必要に応じて洗いや糊抜きを施します。以前は「湯のし」という熱湯処理で繊維を引き締める工程もありましたが、現在では生地の風合いを考慮して、より繊細な仕上げ方法が選ばれることが多くなっています。こうして完成した久留米絣は、着物や作務衣、帯などの和装品、あるいは現代的なアパレル製品やインテリア製品として製品化されていきます。

職人の技と精神性

職人の技と精神性

久留米絣の製作には、長年の経験と修練によって培われた職人の技が不可欠です。特に絣括りや織りの工程では、機械では代替できない人間の感覚と判断力が重要な役割を果たします。久留米絣の職人は通常、一つの工程に特化した技術を極めることが多く、「括り職人」「染め職人」「織り職人」などと呼ばれる専門家が、それぞれの工程を担当します。伝統的な技法を受け継ぎながらも、各職人が独自の工夫や改良を加えることで、技術は進化を続けています。

久留米絣の製作には時間と手間がかかりますが、それは単に効率的でないということではなく、手仕事ならではの価値を生み出しています。一つ一つの工程に心を込め、丁寧に作業を積み重ねることで、機械製品にはない温かみと個性が生まれます。この手仕事の価値は、現代の効率優先の社会において、あらためて見直されています。また、久留米絣の製作には「ものづくり」の喜びと誇りが込められており、職人たちはその精神性を大切にしています。

久留米絣の継承者を育てることも重要な課題となっています。伝統的に親から子へと技術が伝えられてきましたが、現代では後継者不足が深刻化しています。この課題に対応するため、久留米絣の産地では技術研修制度や若手育成プログラムが実施されています。また、学校教育との連携や体験講座の開催など、広く一般に久留米絣の魅力を伝える活動も行われています。こうした取り組みを通じて、久留米絣の技と心は次世代へと受け継がれていきます。

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