百日咳の知識を深める:なぜ予防接種してもかかるのか - HAPIVERI

百日咳の知識を深める:なぜ予防接種してもかかるのか

近年増加している百日咳の基本知識、症状、予防接種を受けてもかかる理由、効果的な予防法を解説。現在の流行状況と大人の追加接種の重要性にも触れています。

百日咳とは - 基本知識と症状の特徴

百日咳とは

百日咳は、百日咳菌(ボルデテラ・ペルタシス)という細菌による急性呼吸器感染症です。その名前の由来は、特徴的な咳が約100日間も続くことから来ています。この感染症は非常に感染力が強く、感染者の咳やくしゃみによる飛沫感染や、接触感染によって広がります。感染力はインフルエンザと同等かそれ以上と言われており、適切な対策が取られないと集団感染につながる危険性があります。

百日咳の症状は大きく分けて3つの段階で進行します。まず「カタル期」と呼ばれる初期段階では、鼻水や軽い咳、微熱など一般的な風邪のような症状が1〜2週間続きます。この時期は特に感染力が強く、周囲に広がりやすい状態です。次に「痙咳期」に移行し、特徴的な連続した咳込みの後に「ヒューッ」という音を立てて息を吸い込む発作的な咳が現れます。この痙咳発作は特に夜間に悪化することが多く、2〜4週間程度続きます。最後に「回復期」となり、咳の頻度や強さが徐々に減少しますが、完全に症状が消失するまでに数ヶ月かかることもあります。

特に注意すべきなのは、年齢によって症状の現れ方が大きく異なることです。6ヶ月未満の乳児では典型的な「ヒューッ」という吸気性笛声を伴う咳が見られないこともあり、代わりに無呼吸発作や呼吸困難などの深刻な症状が現れることがあります。一方、成人や予防接種を受けた子どもでは、単に長引く咳として現れることが多く、一般的な風邪と見分けがつきにくいため、診断が遅れるケースもあります。

2025年の百日咳流行状況と予防接種の効果

2025年の百日咳

現在、日本では2025年に入ってから百日咳の患者数が急増しています。2025年の第12週時点での報告数はすでに4,200例を超え、2024年の年間報告数をわずか3ヶ月程度で上回る勢いです。この流行は日本だけでなく、世界的にも見られており、欧米やアジア諸国でも同様に患者数が増加しています。

特に注目すべき点は、患者の年齢層に変化が見られることです。従来は乳幼児が中心でしたが、最近の流行では5〜15歳の学童期の子どもや、30〜50代の成人にもピークが見られています。さらに興味深いことに、百日咳と診断された5〜15歳の子どものうち約8割は、定期接種として推奨されている4回のワクチン接種を完了しているケースが報告されています。

このような状況から、「なぜ予防接種を受けているのに百日咳にかかるのか」という疑問が生じます。その主な理由として、まずワクチンの効果は永続的ではなく、接種後4〜12年程度で徐々に低下することが挙げられます。そのため、小学校高学年になると再び感染しやすくなるのです。また、近年では百日咳菌自体にも変化が見られ、ワクチンに含まれる抗原とは異なる特性を持つ菌株の出現が報告されています。2024年以降に日本で確認された菌株には、それまでの主流株とは異なる特徴を持つものが増加していることも要因の一つです。

さらに、百日咳菌は非常に感染力が強く、ワクチンによる免疫があっても、大量の菌に暴露された場合や免疫力が低下している状態では感染することがあります。また、2018年から百日咳は全数報告対象疾患となり、より正確に患者数が把握できるようになったことも、統計上の増加要因の一つと考えられるでしょう。こうした複合的な要因により、予防接種を受けていても百日咳に罹患するケースが増えているのです。

予防接種のスケジュールと大人の追加接種の重要性

予防接種のスケジュール

日本での百日咳ワクチン接種は、生後2ヶ月から始まる定期接種として実施されています。具体的には、ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ・ヒブを予防する五種混合ワクチン(以前は四種混合または三種混合)を、標準的には生後2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月の計3回、そして1歳〜1歳半頃に追加1回の計4回接種するスケジュールとなっています。

しかし、前述の通りワクチンの効果は時間の経過とともに減弱するため、日本小児科学会では追加の接種を推奨しています。具体的には、就学前(5〜6歳頃)に三種混合ワクチン(DPT)の追加接種を行うことが望ましいとされています。さらに、より長期的な予防効果を得るために、小学校高学年頃にもう一度追加接種を検討することも有効とされています。ただし、これらの追加接種は任意接種(自費)となります。

大人の追加接種については、特に乳児と接する機会が多い人や妊婦、その家族に推奨されています。また、最後のワクチン接種から10年以上経過している人や、医療従事者、教育関係者など集団感染のリスクが高い環境で働く人も追加接種を検討するとよいでしょう。こうした人々が免疫を持つことで、重症化リスクの高い乳児を守ることにつながります。

日本では成人用の三種混合ワクチン「トリビック®」が使用可能ですが、小児用に設計されているため、成人が接種すると接種部位の痛みや腫れなどの局所反応が比較的高頻度で見られることがあります。欧米では成人用に成分量を調整したワクチンがありますが、日本では現在のところ未承認です。

百日咳の予防と対策:家族と社会を守るために

百日咳の予防と対策

百日咳の予防と対策は、個人の健康を守るだけでなく、特に重症化リスクの高い乳児や免疫力の弱い人々を守るという社会的な意義があります。効果的な予防方法として、まず最も重要なのは適切なワクチン接種です。定期接種だけでなく、必要に応じた追加接種も検討することが大切です。特に乳児がいる家庭や、これから出産を控えている家庭では、周囲の大人(両親、祖父母、兄弟姉妹など)も百日咳に対する免疫を持っていることが重要となります。

日常的な感染予防対策も欠かせません。手洗いやうがいをこまめに行い、咳エチケットを実践することで、感染リスクを減らすことができます。マスクの着用やティッシュ、袖で口や鼻を覆うといった基本的な対策も効果的です。

長引く咳の症状がある場合は、単なる風邪と自己判断せず、医療機関を受診することも重要です。2週間以上続く咳や、夜間に悪化する咳、発作的な咳などの特徴的な症状がある場合は、積極的に医師に相談しましょう。百日咳と診断された場合は、マクロライド系抗菌薬による治療が行われます。エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなどの抗菌薬の服用により、症状の悪化を防ぎ、周囲への感染リスクを減らすことができます。

百日咳と診断された場合は、他者への感染を防ぐため、特に乳児や免疫力の弱い人との接触を避け、抗菌薬の服用開始から数日間は学校や職場を休むなどの対応が望ましいでしょう。家庭内では使い捨てのマスクを着用し、タオルや食器の共用を避けるなど、感染拡大防止に努めることが大切です。

社会全体で百日咳の流行を抑制するためには、ワクチン接種率を高め、集団免疫を形成することが重要です。特に医療機関や保育施設、学校などの集団生活の場では、適切な感染対策と早期発見・早期治療の体制を整えることが求められます。私たち一人ひとりが予防意識を持ち、適切な対策を講じることで、特に重症化リスクの高い乳児を守ることにつながるのです。

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