タイデジタルノマドビザとは

タイは2023年9月、正式に「ロングステイ・デジタルノマドビザ」の発給を開始しました。正式名称は「Long-Term Resident Visa(LTR Visa)」のデジタルノマドカテゴリーで、タイ政府が推進する外国人高度人材誘致プログラムの一環として導入されました。このビザは最長10年間の滞在を可能にし、これまでの観光ビザやノンイミグラントビザとは一線を画す画期的な制度となっています。
LTRビザのデジタルノマドカテゴリーは、海外から収入を得ながらタイに滞在したい外国人を対象としています。従来のタイのビザでは、タイ国内での就労には厳しい制限があり、ワークパーミット(労働許可証)が必要でした。しかし、このビザでは海外の雇用主やクライアントから報酬を受け取りながらタイに滞在することが合法的に認められています。これにより、リモートワークやフリーランスとして働く外国人がタイを拠点に長期滞在することが容易になりました。
このビザの最大の特徴は滞在期間の長さです。5年間の有効期間があり、さらに5年間の延長が可能なため、最長10年間タイに滞在することができます。また、90日ごとの出国やビザラン(ビザ更新のための短期出国)も不要で、年に一度の在留資格報告(90日レポート)のみで滞在が継続できます。さらに、通常のビザでは困難だったマルチプルエントリー(複数回入国)が標準で許可されており、ビジネスや観光のための一時的な出国と再入国が簡単になりました。LTRビザ保持者は17%の優遇税率の適用が可能になる場合があり、タイでの就労許可(ワークパーミット)が取得しやすくなります。配偶者や18歳未満の子供も同じビザでタイに滞在でき、家族全体でのライフスタイル変更が可能となっています。
申請資格と必要条件

タイのLTRビザ(デジタルノマドカテゴリー)を申請するためには、いくつかの重要な条件を満たす必要があります。まず、申請者は個人資産と収入に関する要件を満たすことが求められます。過去2年間の年間個人所得が最低80,000米ドル(約1,200万円)以上あることを証明できるか、あるいは過去2年間の平均年収が最低80,000米ドル以上であり、かつ現在のデジタルノマドとしての勤務先での経験が5年以上あることが条件となります。
また、資産条件として、申請者は最低100,000米ドル(約1,500万円)相当の資産を所有していることを証明する必要があります。この資産には、預金、投資、不動産など様々な形態が含まれます。これらの条件は、タイ政府が高所得者層を対象にプログラムを設計していることを示しています。また、申請時に有効な健康保険に加入していることも必須条件です。この保険は入院費用を最低5万米ドル(約750万円)カバーするもので、タイのすべての公立・民間病院で有効なものである必要があります。
職業や雇用形態に関しては、申請者は現在リモートワークを行っている従業員、フリーランス、または自営業者であることが条件です。具体的には、上場企業または年間売上5億米ドル(約750億円)以上の非上場企業に3年以上勤務している従業員、またはフリーランスや起業家として働いており、過去2年間の個人所得が年間80,000米ドル以上あることが求められます。特に重要なのは、勤務先またはクライアントがタイ国外に所在していることです。
学歴と経験については、申請者は最低学士号以上の学位を持っているか、または関連分野で5年以上の職務経験があることが条件となります。また、申請者は犯罪歴がなく、良好な健康状態であることも条件です。多くの国のビザ申請と同様に、犯罪経歴証明書(日本の場合は「犯罪経歴証明書」または「無犯罪証明書」)の提出が求められます。この証明書は発行から6ヶ月以内のものである必要があります。
申請書類の準備方法

タイのLTRビザ(デジタルノマドカテゴリー)を申請するためには、いくつかの重要書類を準備する必要があります。まず、基本となるのがパスポートです。有効期限が18ヶ月以上残っているパスポートのコピー(個人情報ページ)が必要です。また、タイ労働省が提供する公式申請フォーム(TM.87)に必要事項を記入します。英語で記入する場合がほとんどで、写真(サイズ4cm×6cm、背景白色、6ヶ月以内に撮影)を準備します。
収入証明と資産証明は申請の核となる書類です。過去2年間の年間個人所得が80,000米ドル以上あることを証明するために、確定申告書、給与明細書、雇用契約書などの書類を準備します。また、最低100,000米ドル相当の資産を所有していることを証明するために、銀行残高証明書、投資証明書、不動産評価書などを用意します。これらの書類は通常、申請者の出身国の関連機関(銀行、税務署など)から取得できますが、タイ語または英語への公式翻訳が必要な場合があります。
雇用証明や職業証明も重要です。現在の雇用主からの雇用証明書(在職証明書)、フリーランスの場合はクライアントとの契約書や業務内容を示す書類、自営業者の場合は会社登記簿や事業証明書などを準備します。特に重要なのは、勤務先またはクライアントがタイ国外に所在していることを示す証拠です。学歴証明としては、大学の卒業証書または学位証明書のコピー、あるいは5年以上の職務経験を証明する書類(雇用証明書、レジュメなど)が必要です。
健康保険証明書も必須で、入院費用を最低5万米ドルカバーする健康保険への加入を証明する保険証書または保険会社からの証明書を提出します。犯罪経歴証明書(無犯罪証明書)は、申請者の出身国または居住国の警察または関連機関から取得します。日本の場合、各都道府県警察本部で申請でき、この証明書は発行から6ヶ月以内のものである必要があります。申請書類の準備にあたっては、すべての書類が英語またはタイ語である必要があり、それ以外の言語の場合は、認定翻訳者による翻訳が必要です。
申請から取得までの流れ

タイのLTRビザ(デジタルノマドカテゴリー)の申請プロセスは、主に3つの段階に分かれています。まず最初に、タイ国外から申請する場合は「事前承認」を受ける必要があります。タイ投資委員会(BOI)が運営する「LTR専用ポータルサイト」から申請書をダウンロードし、必要事項を記入します。この申請書と必要書類をスキャンし、オンラインで提出します。書類審査には約20〜30営業日かかり、審査が完了すると、BOIから「資格認定書(Qualification Endorsement Letter)」が発行されます。
資格認定書を受け取ったら、次のステップとしてビザの申請を行います。資格認定書の発行日から60日以内に、タイ国外の場合はタイ大使館または領事館で、タイ国内の場合はタイ移民局でLTRビザの申請を行います。申請時には、資格認定書、パスポート、写真、申請フォーム(TM.87)、ビザ申請料(50,000バーツ、約20万円)が必要です。ビザ申請の処理には通常5〜7営業日かかり、ビザが発行されると、パスポートにLTRビザのスタンプが押されます。
タイに入国後、最終ステップとして居住証明書(Re-entry Permit)と就労許可証(Work Permit)の申請を行います。タイ入国後90日以内に、タイ移民局でデジタルIDカード(Digital ID Card)と居住証明書を申請します。この際、タイでの住所証明(賃貸契約書など)が必要となります。デジタルIDカードは、タイ国内での身分証明書として使用でき、各種手続きの際に便利です。また、タイ国外からのリモートワークを行う場合でも、就労許可証の申請が推奨されています。
LTRビザ取得後の重要な義務として、90日レポート(90-day Report)があります。これはタイに90日以上滞在する外国人に義務付けられている居住地の定期報告で、タイ入国後90日ごとに最寄りの移民局で行います。オンラインでの報告も可能です。また、LTRビザは5年間有効で、条件を満たしていれば更に5年間の延長が可能です。延長申請はビザ有効期限の30日前から行うことができ、タイ移民局で申請します。延長時には当初の申請と同様の条件(収入、資産など)を満たしていることを証明する必要があります。