なぜプロテインに“ケトン体”を混ぜるのか――外因性ケトン(BHB)のしくみ

なぜプロテインに“ケトン体”を混ぜるのか――外因性ケトン(BHB)のしくみ

昼食のあと、午後いちばんの会議。まぶたが重い。頭にうっすら霧がかかって、コーヒーで押し返してもすぐに戻ってくる。そんな午後のだるさに、心当たりのある方は多いはずです。

このだるさは、気合いが足りないからではありません。じつは、体がそのとき何を燃料にしているかと、深く関わっています。ごはんやパンからとった糖が切れかけると、脳への燃料の供給が不安定になり、頭がぼんやりしてくるからです。

ここでは、最近店頭でも見かけるようになった「ケトン体入り」のプロテインを手がかりに、この午後のだるさと、体のエネルギーのしくみをほどいていきます。タンパク質の粉に、なぜわざわざケトン体を混ぜるのか。その理由を、順にたどっていきます。

糖が切れても動ける――体の“予備の燃料”

私たちの体は、ふだん糖(ブドウ糖)を主な燃料にして動いています。ごはんやパンからとった糖を燃やすことで、脳も筋肉も働きます。いわば主電源のようなものです。

ところが、糖質をぐっと減らしたり、長い時間食べずに過ごしたりすると、この主電源が心もとなくなります。そんなとき、肝臓が蓄えておいた脂肪を材料にして、別の燃料をつくり始めます。これがケトン体で、主電源が細ったときに立ち上がる、予備バッテリーのような存在です。

ケトン体にはいくつか種類がありますが、血液に乗って全身をめぐり、脳や筋肉で燃料として使われる主役がBHB(ベータヒドロキシ酪酸)です。しかも脳は、このBHBをわりとすんなり受け入れます。

糖だけに頼らないエネルギーの回し方を、私たちはもともと体に備えているのです。食べ物が安定して手に入らなかった時代を生き延びるために用意された、いわば保険のような仕組みといえます。ふだんは眠っているこの仕組みをわざと起こすのが、ケトジェニックと呼ばれる食べ方です。

待つ時間を、外から短くする

この予備バッテリーを食事だけで立ち上げようとすると、実はそう簡単ではありません。体がケトン体をしっかりつくれるようになるまでに、数日から数週間の食事管理が必要です。

しかもその移行期には、だるさや頭痛、集中力の低下といった不調が出やすいことも知られています。俗に「ケトフルー」と呼ばれる、あの気だるさです。

その手間をショートカットするのが、外因性ケトンです。ケトン体そのものを、外から取り入れてしまう方法です。あらかじめBHBを配合しておけば、体がつくり出すのを待たずに、飲んでから比較的短い時間で血中のケトン体を高められると報告されています。

あるケトン飲料を用いた研究では、飲んでおよそ1時間で血中のケトン体がはっきり上昇したことが示されました。移行期のつらさをやわらげ、切り替えをなめらかにする助けになると期待されているのは、こうした働きがあるからです。

もっとも、この切り替えには、じゃまが入りやすいという面もあります。糖質を減らすと、甘いものがむしょうに恋しくなります。血糖が急に下がると、体は手っ取り早い糖を求め、つい甘いものに手が伸びます。

その一杯がまた血糖を乱高下させ、この繰り返しから抜け出しにくくなります。外因性ケトンは、糖の代わりになる燃料を先回りで届けることで、この繰り返しの勢いをやわらげてくれます。

ケトン体が力に変わるまで――リレーのバトンの話

体に入ったBHBは、細胞のなかにある小さな発電所、ミトコンドリアへと運ばれます。そこで少しずつ形を変えながら、最後はエネルギーの通貨と呼ばれるATP(アデノシン三リン酸)へとつくり替えられます。

この受け渡しは、リレーによく似ています。走者から走者へバトンを止めずに渡していくように、栄養は形を変えながらエネルギーへとつながっていきます。ふだんは糖という決まった走者がバトンを持って走りますが、BHBは途中からでもすっとバトンを受け取り、走り出すことができます。だからこそ、糖という走者が抜けても、レースそのものは止まりません。

脳は糖をおもに使いますが、ケトン体が十分にあれば、そちらも燃料として受け入れます。しかもその供給は、急に上がって急に落ちる糖に比べて、おだやかに続きやすいと考えられています。糖が届きにくい場面でも、代わりのバトンで走り続けられます。

同じ「BHB」でも、中身は同じじゃない

BHBには、分子の形が鏡に映したように左右反転した、二つのタイプがあります。右手と左手の手袋のような関係です。片方のD型は、体がエネルギーとしてすんなり使える、いわば利き手です。

もう片方のL型は、エネルギーとしてはほとんど使われず、その多くがそのまま尿へ出ていくと報告されています。

安価なBHBには、この二つが半々に混ざった「DL型」が使われることも少なくありません。ある研究では、同じ量を摂った場合でも、純粋なD型のほうがDL型に比べて、血中のケトン体をおよそ二倍まで高めたと報告されています。

つまり、同じ「BHB配合」と書かれていても、どのBHBかによって効率は大きく変わります。パッケージのグラム数だけを見ても、その違いまでは分かりません。

市販の血中ケトン測定器の多くは、D型しか読み取れません。そのため、L型を多く含むタイプでも、数値のうえでは上がって見えることがあります。表示された数字をそのまま受け取ると、実際の働きとずれてしまうこともあるのです。

オイルで摂るのと、どう違う

ケトン体をねらう方法は、BHBを直接とるだけではありません。ケトジェニックでは、MCTオイル(中鎖脂肪酸)もよく使われます。ただし、MCTはそれ自体がケトン体というわけではありません。肝臓でいちどケトン体につくり替えられて、はじめて燃料になります。

このつくり替えには少し時間がかかり、どれくらい変換されるかは、その人の肝臓の働きによっても差が出ます。血中のケトン体の上がり方も、直接とるBHBに比べると、おだやかにとどまりやすいと報告されています。

その点、BHBそのものを取り入れれば、つくり替えの一手間は要りません。すぐに使える形で届きます。とはいえ、MCTにはMCTなりのおだやかさや使いやすさがあります。どちらが優れているという話ではなく、燃料が体に届くまでの道のりが違うだけです。

血糖のジェットコースターをならす

こうして届いたケトン体は、一日を通した血糖の動きにも関わってきます。糖質の多い食事をとると、血糖は一気に上がります。それを下げようとインスリンが働き、その反動で今度は急に下がります。この激しい上下動が、食後の眠気や集中力の落ち込み、そして甘いものへの欲求につながると考えられています。

乗り物酔いと同じように、上がって下がるその動きそのものが、体をぐったりさせてしまうのです。菓子パンやおにぎりだけで昼を済ませた日の、あの容赦ない眠気を思い出す方もいるはずです。

外因性ケトンについては、食後の血糖値を下げ、空腹感に関わるホルモンであるグレリンの働きを抑えたという報告があります。糖の代わりにケトン体という燃料が届くことで、エネルギー切れの谷を浅くできるのではないか、と言われています。

見落とされがちな“塩”の話

ケトジェニックには、あまり語られない注意点もあります。塩、つまりナトリウムが不足しやすいことです。糖質を減らすとインスリンの働きが下がり、それにつれて腎臓は、水分とともにナトリウムをふだんより多く外へ出すようになります。

移行期のだるさや頭痛、足のつりといったケトフルーの症状は、じつのところ、この電解質の目減りが大きく関わっていると考えられ、エネルギーが足りないというより、体のなかの水と塩のバランスがくずれた状態、といったほうが近いかもしれません。

そこでケトジェニックを意識した商品には、塩味や柑橘の酸味を効かせたものがよく選ばれます。ナトリウムやクエン酸を思わせる味づけです。

甘くて重たいフレーバーが多いなかで、あえて塩レモンのようにさっぱりと仕上げるのは、こうした理にかなった工夫でもあります。毎日続けるものだからこそ、後味の軽さは、地味なようでいて大切なポイントになります。

なぜ純度の高いホエイと組むのか

この味づけの工夫は、ベースとなるタンパク質選びともつながっています。ケトン体入りのプロテインの多くが、純度の高いホエイ、WPI(分離ホエイ)を土台に選んでいるのには、いくつかの理由があります。

WPIは、余分な糖質や脂質を削ぎ落としたタンパク質で、乳糖もほとんど残っていません。そのため、乳糖でお腹が張りやすい方にもやさしく、糖質が少ないぶん、血糖をあまり揺らさずにタンパク質を届けられます。

この点で血糖をならしたいというケトン体の狙いと、ちょうど同じ方向にそろいます。純度が高いと雑味も少ないため、強い甘味でごまかさなくても、さっぱりとした味に仕立てやすくなります。

さきほどの塩レモンのような後味が成り立つのも、この純度あってのことです。プロテインの種類ごとの選び分けは、それだけで一つの大きなテーマになるので、ここでは深追いしません。

乳製品をとると、はっきりした症状はなくても「なんとなく重い」と感じる方もいます。原因を一つに決めつけるのは早計ですが、そうした場合に、より純度の高いタンパク質のほうが体に合うというケースもあるようです。

どんな人に、どんな場面で効くのか

こうした特徴が活きるのは、持久系のスポーツをする方です。糖が尽きても脂質を使って動ける「代謝の柔軟性」を保ちやすくなり、後半の失速、いわゆる「壁」を防ぐ助けになると期待されています。体にたっぷりとある脂肪を、いざというときの燃料に回せるようにしておく、というイメージです。

長時間のデスクワークが続く方にも向いています。血糖の谷が浅くなることで、午後になっても集中が途切れにくくなります。朝食や昼食を一杯に置き換えて、あえて血糖を揺らさないという使い方を選ぶ方もいます。

減量に取り組む方にとっては、移行期の気力切れや空腹をやわらげ、続けやすさを支えてくれる存在になります。タンパク質そのものにも満腹感を高める働きがあるため、一杯で腹持ちのよさも助けてくれます。ダイエットが数日でくじけてしまう原因の多くは、意志の弱さではなく、たいていこの「つらさ」のほうにあるのです。

試すときの、ちいさなコツ

実際に取り入れてみようと思ったら、始め方にもちょっとしたコツがあります。はじめから量を増やさず、まずは一杯から始めてみてください。水やお茶で割れば、余分な糖を足さずに飲めます。

朝の一杯を置き換える、運動の前にとるなど、生活のどこに置くかをあらかじめ決めておくと、無理なく続けやすくなります。自分に合うかどうかは、数日ためしてみて、体の軽さや午後の調子で確かめていくとよいでしょう。

“足す”より、“ならす”

プロテインにケトン体を足すのは、ただ成分を一つ増やしたいからではありません。糖に頼りきったエネルギーの使い方を「ならす」ための工夫だと考えると、その狙いが見えてきます。

血糖の激しい上下をなだめ、エネルギー切れの谷を浅くし、脂質もきちんと燃料に使える状態へと、なめらかに橋をかける。ケトン体入りのプロテインは、その橋渡し役をねらった一杯だといえます。

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