健診をすり抜ける『血糖値スパイク』――午後の眠気のしくみと、山をなだらかにする食べ方

健診をすり抜ける『血糖値スパイク』――午後の眠気のしくみと、山をなだらかにする食べ方

昼食のあと、午後いちばんの会議。まぶたが重い。頭にうっすら霧がかかって、話が半分しか入ってこない。そんな時間帯に覚えのある方は、少なくないはずです。

不思議なのは、健康診断ではとくに何も言われないことです。空腹時の血糖値も、過去1〜2か月の平均を映すHbA1cも、範囲のなか。それなのに、食後の数時間だけ、体の調子がすとんと落ちる。

この「食後だけのブレ」に名前をつけたのが、血糖値スパイクという言葉です。食事のあと1〜2時間で血糖がふだんより急に跳ね上がり、そのあとインスリンの働きで急に下がる——ジェットコースターのような上下動を指します。

まず血糖値スパイクは正式な医学用語ではありません。単発の上昇があったからといって、それだけで糖尿病というわけでもありません。ただ、この「見えにくい山」がどこから来て、体に何をしているのかを知っておくと、日々の食べ方が少し変わってきます。

「空腹時は正常」でもすり抜けるもの――健診が見落とす食後の山

健診で測る空腹時血糖は、文字どおり何も食べていないときの底の値です。HbA1cは、およそ1〜2か月ぶんの平均。どちらも大切な指標ですが、食後の短い時間だけあらわれる山は、平均にも底値にもほとんど映りません。採血のタイミング一回で、山のてっぺんを踏むことはまずないからです。

だから、空腹時が正常でも食後だけ高い、という状態は取りこぼされがちです。いわゆる「境界型」や「隠れ高血糖」と呼ばれる段階が、ここに隠れています。

この見落としは、日本人ではとくに起きやすいと考えられています。日本や東アジアでは、空腹時はふつうでも食後にだけ血糖が高くなるタイプが、ヨーロッパの人々に比べて多い、と大規模な比較調査で報告されています。空腹時血糖だけで判断すると、そのぶん見逃しが増えるということです。

食後の高血糖そのものが、体にとって無視できない負担になることも分かってきました。ヨーロッパの大規模な追跡調査(DECODE研究)では、食後の高い血糖が、空腹時血糖とは切り離しても心血管のリスクと結びつく、と示されています。

近年は、皮膚に貼る持続血糖測定器(CGM)が広まり、この「見えない山」を一本の線として眺められるようになりました。ただし測定器は、あくまで変動を可視化する道具です。確定診断には、75グラムの糖を飲んで反応をみる負荷試験などの、総合的な評価が欠かせません。

なぜ山は高くなるのか――インスリンの「立ち上がり」が遅れるとき

なぜ食後にだけ、血糖が急に跳ね上がるのでしょう。

鍵を握るのは、インスリンが出るタイミングです。インスリンは、血糖が上がったときに二段構えで分泌されます。最初の数分でパッと出る「初期分泌」と、そのあとに続くゆるやかな「追加分泌」です。

初期分泌は、あらかじめ用意しておいた分を一気に放出する反応です。火がすぐ立ち上がるコンロを思い浮かべると近いかもしれません。食事で糖が入ってきた瞬間に、まず一発、素早く血糖を抑えにいく「最初のひと押し」を担っています。

この立ち上がりが遅れると、話が変わります。糖が血のなかにとどまったまま処理が追いつかず、食後の短い時間で血糖が跳ね上がります。慌てた膵臓は、あとから必要以上のインスリンを遅れて大量に出します。この「出遅れ」と「あわてての出しすぎ」のずれこそが、急上昇と、その直後の急降下の正体です。

初期分泌は、加齢や内臓脂肪の蓄積、あるいは糖尿病のごく初期などで鈍りやすい、とされています。スパイクは、インスリンがまったく出ないというより、出るのが一拍遅れることで起きている。そう考えると、輪郭がつかみやすくなります。

日本人は「やせていても」起こりやすい――分泌の予備力という弱点

日本や東アジアの人々は、インスリンを分泌する予備力——いざというときに増産できる余力——が小さい傾向がある、と複数の比較研究が示しています。インスリンの効き自体はむしろ良いほうなのに、内臓脂肪などで効きが悪くなったとき、膵臓がそれを埋め合わせる力が弱い、ということです。

欧米の人々では、太るとインスリンを出す細胞そのものが増えて不足を補う、という反応が起きやすいのに対し、日本人ではその増え方が小さいことも報告されています。結果として、欧米の人ほど太っていなくても、見た目はやせ型でも、血糖のコントロールが崩れやすい、という違いが生まれます。

遺伝的な背景も少しずつ見えてきました。2008年に日本人集団で報告された解析では、KCNQ1という遺伝子の型が2型糖尿病のなりやすさと関わり、その働きがインスリンを出す力の弱さに結びつく、と示されています。この関連は、欧米の集団よりも日本人で強めに出る傾向も指摘されています。

もっとも、これは「なりやすさ」の話であって、決められた運命ではありません。体質を知ったうえで、後半で触れる食べ方や動き方を整えれば、山はずいぶんなだらかにできます。

上がったあとの急降下――午後の眠気の正体

「午後の眠気」の一因は、じつは血糖の急上昇そのものより、そのあとの急降下にあります。

遅れて大量に出たインスリンは、糖の吸収が終わりかけたころに効いてきます。すると「効きすぎ」の状態になり、食後2〜5時間ほどで、血糖が正常の範囲を割り込んで下がりすぎることがあります。反応性低血糖と呼ばれる現象で、糖尿病の極初期だけでなく、食生活や睡眠の乱れから、ふだん健康な人にも起こります。

血糖が急に下がると、体はこれをエネルギー不足の危機と受け取り、引き上げようとして交感神経を一気に働かせます。動悸、冷や汗、手の震え、そわそわした不安感。こうした反応が出るのは、この立て直しのためです。

同時に、糖を主な燃料にしている脳は、いわば軽いガス欠に陥ります。強い眠気、だるさ、集中力の低下は、この脳へのエネルギー不足が関わっている、と考えられています。食後の眠気を「消化で血が回っただけ」と片づけきれないのは、こういう裏側があるからです。

夜のあいだにこの乱高下が起きると、交感神経が高ぶって眠りが浅くなり、睡眠の質そのものを下げることも指摘されています。

血管を内側からサビさせる――変動そのものの負担

急な山は、その場の不調だけで終わりません。血糖が急に流れ込むと、血管のいちばん内側をおおう細胞のなかで、処理の過負荷から活性酸素が大量に生まれる、という道すじが指摘されています。血管の内側は、血管を広げたり血液をなめらかに保ったりする「司令塔」でもあり、この活性酸素はその働きを乱します。

しかも、血糖の変動を調べた研究では、この負担が、高いまま平らに続く高血糖よりも、上がったり下がったりの変動が大きいときのほうが強まる、と報告されています。血管を内側から少しずつサビさせ、コゲつかせるようなイメージです。

こうした負担が積み重なると、動脈硬化の入り口になりうる、と考えられています。食後のスパイクを「軽く見ないほうがいい」とされるのは、この血管へのダメージが背景にあるからです。裏を返せば、山をなだらかにできれば、この負担もやわらげられる余地がある、ということでもあります。

どう平らにするか――順番・よく噛む・食後のひと歩き・朝を抜かない

まず、食べる順番です。野菜や海藻、きのこなどの食物繊維、そしてたんぱく質を先に口にすると、あとから来る糖の山が低くなりやすい、とされています。水溶性の食物繊維は胃のなかで水を含んでゲル状になり、糖が腸へ送られる速さをゆるめます。

糖の吸収に、目の細かい網を一枚かける——そんな働きです。先に繊維やたんぱく質が腸に届くと、インスリンを助けるホルモンの準備も早めに整い、あとから来る糖に対応しやすくなります。あわせて、よく噛んでゆっくり食べると、この効果が生きます。

次に、食後の軽い運動です。歩行と血糖を調べた研究では、食べたあとに10〜15分ほど歩くだけでも、山はなだらかになりやすい、と報告されています。筋肉には、インスリンの助けを借りずに糖を取り込む別ルートが備わっているからです。

体を動かすとエネルギーのセンサー(AMPK)が働き、糖の取り込み口を筋肉の表面へ呼び出します。インスリンの初期分泌が一拍遅れても、こちらのルートが糖を引き受けてくれる、というわけです。

もう一つ、見落とされがちなのが朝食です。朝に大麦などの発酵性の食物繊維をとっておくと、昼食後のスパイクまで抑えられる、という「セカンドミール効果」が知られています。

繊維が大腸まで届いて腸内細菌に発酵されると、短鎖脂肪酸——腸内細菌が現場で作る燃料のようなもの——が生まれ、これがインスリンを助けるホルモンの分泌を、ゆっくり長く後押しします。「血糖を上げたくないから朝食を抜く」のは、むしろ逆効果になりやすい、とされています。

振り返ると、冒頭の「食後だけの不調」は、インスリンの立ち上がりが一拍遅れ、そのあとの急降下が脳を軽いガス欠にする——という一連の流れのあらわれでした。健診の空腹時血糖が正常でも、この山は静かに起きていることがあります。

今日の一食から試せます。順番を変える。よく噛む。食後に少し歩く。朝食を抜かない。山をほんの少しなだらかにするだけで、午後の頭の重さも、血管への負担も、変わってくる余地があります。

なお、持病のある方や、食後の強い動悸・冷や汗・意識のふらつきなどが続く方は、自己判断で抱え込まず、一度かかりつけ医に相談しながら進めると安心です。

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