同じカロリーなのに、夜は違う――メラトニンとインスリンのすれ違い

同じカロリーなのに、夜は違う――メラトニンとインスリンのすれ違い

夜十時をまわってからの夕食。仕事が長引いた日は、どうしてもそうなります。食べ終えてすぐ横になった翌朝は胃が重く、同じものを昼に食べたときとは体の反応が違う気がする——そんな覚えのある方は多いはずです。

そこへ「食べる時間を8時間に絞ると痩せる」「朝にしっかり食べたほうが太らない」といった話が流れてきます。時間栄養学と呼ばれる分野はこの十数年で大きく育ち、いまも新しい試験が積み上がっています。

ただ、研究が増えるにつれて、当初の期待とは少しずれた景色が見えてきました。時刻を変えると何が変わり、何は変わらないのか。その線引きが、ようやくはっきりしてきています。

ここでは、カロリーを揃えて比べた試験を手がかりに、「いつ食べるか」の効き方をほどいていきます。

時間を絞っても、体重は変わらなかった――カロリーという交絡

「16時間断食」に代表される時間制限食は、カロリー計算がいらない手軽さで広まりました。初期の研究では体重が落ち、血圧やインスリンの指標が改善したとも報告されています。

ただ、こうした試験には見落としやすい交絡が潜んでいます。食べられる時間が短くなれば食事や間食の機会そのものが減るため、参加者が意識していなくても、1日の摂取量は自然に落ちていきます。

そうなると、改善したのが「時刻を整えたから」なのか「結果としてカロリーが減ったから」なのかを切り分けられません。

この一点に踏み込んだのが、2022年に米国の医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンで報告された試験です。肥満のある139名を、朝8時から夕方4時までに食事をおさめる群と、時間を制限せずカロリーだけを制限する群に分け、12か月にわたって追跡しました。

両群とも同じカロリー制限を受けており、時間枠を足したときに上乗せがあるかどうかだけを見る設計になっています。

12か月後、体重の減り方に統計的な差は認められませんでした。腹囲、体脂肪、血圧、代謝の指標についても結論は同じで、減量という一点に限れば、時間枠を足したぶんの効果は見えていません。

それでも、体の時計は動いていた

では時刻は無意味なのか。ここを丁寧に測ったのが、2025年にサイエンス・トランスレーショナル・メディシン誌で報告された、ドイツ栄養研究所(DIfE)とシャリテ医科大学のグループによる試験です。過体重・肥満の女性31名に、早い枠(朝8時〜午後4時)と遅い枠(午後1時〜午後9時)を2週間ずつ実践してもらい、カロリーと栄養素の構成はほぼ同じに揃えています。同じ人が両方を経験するため、体質の差に結果が引きずられにくい設計です。

インスリン感受性、1日の平均血糖、血中脂質、炎症の指標——いずれにも、臨床的に意味のある改善は認められませんでした。

一方で、はっきり動いたものもあります。血液中の細胞に備わった時計です。枠を5時間後ろへずらしただけで、細胞の時計はおよそ40分後ろへ移り、就寝と起床の時刻も遅くなったと報告されています。

食事の時刻は、体の内側の時計を動かす合図として確かに働いている。ただ、2週間という短さでは、その動きが代謝の数値の改善までは連れてこなかった。研究チームはそう結論づけています。

夜、インスリンにブレーキがかかる――メラトニンとの綱引き

体重で差が出ないのに、夜遅い食事の評判が悪いままなのはなぜか。背景には、二つのホルモンのすれ違いがあります。

就寝の数時間前になると、脳の松果体からメラトニンが分泌されはじめます。眠りへ向かう合図として知られたホルモンですが、顔はもう一つあります。

膵臓でインスリンを出す細胞には、メラトニンを受け取る窓口(MTNR1B)が備わっており、そこにメラトニンが結合するとインスリンの分泌が抑えられます。

眠っているあいだ食べ物は入ってきませんから、そこでインスリンが出続ければ、夜のうちに血糖が下がりすぎてしまいます。メラトニンは、その行き過ぎを止めるブレーキとして働いています。

問題は、メラトニンが出はじめた時間帯に食事が入ってきたときです。腸からは糖が流れ込んでいるのに、それを片づけるインスリンのほうは出にくくなっており、糖が血中に長くとどまって、食後の血糖が大きく跳ねやすくなります。

この仕組みには個人差もあります。2009年に、複数のゲノムワイド関連解析が、MTNR1Bという遺伝子の型の違いと、空腹時血糖の高さやインスリン初期分泌の低さとの関連を報告しました。遅い夕食で糖の処理が落ちる傾向は、この型を持つ人でとくにはっきり出ることが、ランダム化した比較試験で示されています。

夜遅く食べても平気な人と、てきめんに響く人が分かれる。その一端は、こうした体質の違いにあるようです。

朝に寄せても、燃えるカロリーは増えない――効いていたのは食欲

「朝食は王様のように、夕食は貧者のように」。この古い言い回しは、朝のほうが代謝が高くカロリーが燃えやすい、という説明とセットで語られてきました。

説明に正面から当たったのが、2022年にセル・メタボリズム誌で報告された英国アバディーン大学の試験です。30名を対象に、朝45%・昼35%・夜20%という配分と、その逆の配分を、それぞれ4週間ずつ、同じカロリーで実施しました。エネルギー消費の測定には、日常生活を送りながら総消費量を追える二重標識水法という精度の高い手法が使われています。

結果は、1日の総エネルギー消費にも安静時代謝率にも配分による差はなく、減量幅もほぼ同じでした。朝に寄せたぶんカロリーがよけいに燃える、という説明は支持されていません。差がついたのは食欲のほうです。朝に多く食べた期間では、日中の空腹感が明らかに低く保たれていました。

食欲が落ち着けば、夕方以降の間食や、勢いで手が伸びるひと皿が減ります。現実の生活で朝型の配分が効くとすれば、代謝が燃えるからではなく、無理なく食べる量が収まるからだと考えられます。

同じ2022年には、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(ハーバード大学)のグループが、実験室で光や睡眠まで管理した条件で同じ問いを検証しています。そちらでは、遅い食事のほうが覚醒中のエネルギー消費と24時間の深部体温が低く、満腹シグナルであるレプチンの低下と空腹感の増加もあわせて観察されました。

自由な生活を4週間追った試験と、実験室で数日を厳密に管理した試験。見ている時間の長さも条件も違うため、消費エネルギーについては、まだどちらか一方で言い切れる段階にありません。ただ、食欲が動くという点では、二つの試験は一致しています。

夜勤という極端な条件――夜に食べないだけで防げたもの

2021年にサイエンス・アドバンシズ誌で報告されたブリガム・アンド・ウィメンズ病院の試験では、19名を14日間の管理下に置き、夜勤を模した生活を送ってもらいました。片方の群は夜勤中も夜に食事をとり、もう片方は夜間を絶食して日中だけ食べています。

夜に食べた群では、深部体温が刻む中枢のリズムと、血糖が刻む末梢のリズムが噛み合わなくなり、糖の処理能力の低下が確認されました。

同じように夜起きて光を浴びていても、食事を日中に寄せた群では、そのずれも糖の処理の悪化も起きていません。夜起きていること自体より、夜に食べることのほうが代謝には響くと読める結果です。

現場での実行可能性も確かめられています。2022年にセル・メタボリズム誌で報告された、ソーク研究所とカリフォルニア大学サンディエゴ校による試験では、24時間シフトで働く消防士137名が、12週間にわたって食事を10時間の枠におさめました。食事枠は平均14.1時間から11.1時間へ縮まり、有害事象は報告されていません。もともと血糖や血圧が高めだった人たちでは、長期の血糖を映す指標と、下の血圧の改善も見られたとされます。24時間勤務という条件でも続けられた。その事実自体が、この方法の敷居の低さを物語っています。

早く食べることより、同じ時刻に食べること

体重を落とす力そのものは、時刻ではなく摂取量が握っています。時間を絞れば結果的に量が減りやすいという順序であって、時計が脂肪を燃やしてくれるのではありません。

一方で、食後の血糖の跳ね方や、体の内側の時計の位置は、確かに時刻に左右されます。夜のメラトニンとインスリンのすれ違いは、その最もわかりやすい例です。夜遅い食事の翌朝が重いという冒頭の実感も、この文脈に置くと収まりがつきます。夜は、体が糖を扱う態勢から少しずつ降りはじめている時間帯だからです。

やることは複雑ではありません。夕食をできるだけ前倒しにし、就寝の直前に大きな食事を入れない。そのうえで、平日と休日で食事の時刻を大きくずらさない。

枠を5時間ずらしただけで細胞の時計が40分動いたことを思えば、毎日の時刻がばらつくことの意味も見えてきます。早い時刻を厳密に守ることより、同じリズムを繰り返すことのほうが、体には届きやすいのかもしれません。

なお、血糖や血圧の治療を受けている方や、食事の時刻が薬のタイミングと結びついている方は、自己判断で食事の枠を変えないほうが安心です。夜勤などで生活が不規則な方も含め、大きく変えたいときは、かかりつけ医に相談しながら進めてください。

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