1970年代以降、久留米絣は前例のない厳しい試練に直面した。生活様式の洋風化、安価な化学繊維の普及、後継者不足など、伝統工芸を取り巻く環境は激変した。多くの織元が廃業に追い込まれ、職人の高齢化が進む中、久留米絣は存続の危機に立たされた。しかし、この困難な時代こそが新たな挑戦の始まりでもあった。伝統を守りながらも変化を恐れない革新的な取り組みが、久留米絣に新たな可能性を開いていく。
明治維新と共に始まった近代化の波は、久留米絣にとって大きな転換点となった。江戸時代に確立された手工業的生産から、機械化と分業制による近代的産業への変革。この過程で久留米絣は量産化を実現し、全国へと販路を広げていく。しかし真の主役は、変化する時代の中で技術を磨き続けた職人たちだった。彼らの手が生み出す美しい織物は、日本の近代化と共に歩み、新たな伝統を築き上げていったのである。
九州の筑後平野に広がる久留米の地で、一人の少女が生み出した技法が、やがて日本を代表する織物となる。文化年間（1804～1818年）、井上伝という12歳の少女が偶然発見した絣技法は、江戸時代後期の庶民文化と共に花開き、現代まで続く伝統工芸の礎となった。藍に染まる糸で織り成される美しい模様は、単なる布を超えて、日本人の美意識と生活文化を映し出す鏡となったのである。
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