アドリア海の美しい海岸線と歴史的な街並みで知られるクロアチア。その豊かな自然環境と比較的手頃な生活費から、近年デジタルノマド(場所を選ばず働ける人々)に人気の滞在先となっています。2021年から始まったクロアチアのデジタルノマドビザ制度の概要と必要要件について解説します。
クロアチアのデジタルノマドビザとは

クロアチアのデジタルノマドビザは、2021年から始まった新しい滞在許可制度です。正確には「ビザ」というよりも「一時滞在許可」に近い制度で、クロアチア国外の企業やクライアントのためにリモートワークをしながら、最大1年間クロアチアに滞在することを可能にします。
このビザの最大の特徴は、クロアチア国外からの収入を得ることを前提としている点です。つまり、クロアチア国内の企業に雇用されることはできませんが、海外の企業やクライアントとの契約に基づいてリモートワークを行うことは許可されています。
2024年9月に発表されたデータによると、クロアチアのデジタルノマドビザで滞在している外国人は約630名で、申請者の半数以上がロシアとウクライナからとなっています。日本人の申請者も少数ながら存在し、2024年1月から9月までの間、日本人の申請で却下されたケースは0件と高い承認率を示しています。
クロアチアのデジタルノマドビザの特徴

クロアチアのデジタルノマドビザは、他国のデジタルノマドビザと比較していくつかの独自の特徴があります。
まず、最も注目すべき点は所得税の優遇措置です。クロアチアでは、デジタルノマドビザ保持者が国外から得る収入に対してクロアチア国内での納税義務がありません。この点は、他国のデジタルノマドビザと大きく異なる魅力的な特徴です。例えば、ポルトガルやエストニアなどでは、一定期間滞在すると居住者として扱われ、グローバル所得に対する課税が発生する場合があります。
次に、滞在期間に関する特徴があります。クロアチアのデジタルノマドビザの有効期間は最大1年間で、延長はできません。ただし、ビザの有効期限が切れてから6ヶ月後に再申請が可能です。これに対し、スペインのデジタルノマドビザは初回12ヶ月の滞在が可能で、その後は最長5年まで更新できるなど、より長期の滞在を想定した国もあります。
また、日本人がクロアチアに滞在する場合、観光目的では90日間ビザなしで滞在できるため、この制度と組み合わせることで理論上は最大15ヶ月間の連続滞在が可能になるというメリットもあります。
クロアチアのデジタルノマドビザの申請要件

クロアチアのデジタルノマドビザを申請するための主な要件は以下の通りです:
1. EUまたはEEA諸国の市民ではないこと(日本人はこの条件を自動的に満たします)
2. 十分な収入証明:月収2,365ユーロ(約43万円)以上の収入があること、または28,385ユーロ(約520万円)以上の銀行残高があることを証明する必要があります。この金額は他国と比較して比較的妥当な水準と言えます。例えばポルトガルのデジタルノマドビザでは月収約3,040ユーロ(約55万円)以上が必要です。
3. クロアチア国外の企業やクライアントのためにリモートワークをしていることの証明:雇用契約書や業務委託契約書などが必要です。
4. 健康保険の証明:クロアチア滞在中をカバーする有効な健康保険に加入していることを示す書類が必要です。
5. 犯罪歴がないことの証明:母国から取得した犯罪経歴証明書などが求められます。
6. クロアチアでの一時的な住所証明:宿泊予約確認書や賃貸契約書などが必要です。
7. 有効なパスポート:ビザの有効期限が切れた後、さらに3ヶ月間有効なパスポートが必要です(つまり、1年3ヶ月以上の有効期限があるパスポート)。
申請費用と手続きの特徴

クロアチアのデジタルノマドビザの申請費用は比較的リーズナブルで、合計で約87.59ユーロ(約14,000円)程度です。内訳は申請料金が46.45ユーロ、IDカード管理手数料が9.29ユーロ、IDカード発行手数料が31.85ユーロとなっています。
他国のデジタルノマドビザと比較して、クロアチアのビザ申請は代行会社やエージェントを通さなくても個人で直接申請できる点が特徴です。手続きはオンライン、大使館での直接申請、または現地の警察署での申請という3つの方法があります。
申請から承認までの期間は数ヶ月かかることもありますが、承認された日から1年間の滞在が許可されるため、申請の待機期間が長くなっても滞在可能期間が短くなることはありません。
他国のデジタルノマドビザと比較して、クロアチアの制度は提出書類が比較的少なく、要件を満たしていれば承認される可能性が高いとされています。例えば、マルタのデジタルノマドビザでは、より詳細な財務証明や経歴証明が求められることがあります。
クロアチアは、アドリア海の美しい海岸線や世界遺産に指定された歴史的な街並み、比較的リーズナブルな生活費、そして安全で暮らしやすい環境が魅力です。首都ザグレブやドゥブロヴニク、スプリットなどの都市では、高速インターネット環境が整っており、コワーキングスペースも充実しています。EU加盟国であるため、クロアチア滞在中に他のEU諸国への短期旅行も容易に行えるという利点もあります。