ラトビアデジタルノマドビザの特徴と背景

2022年2月、バルト三国の一つであるラトビアは、リモートワーカーとデジタルノマドを対象とした「ラトビアデジタルノマドビザ」を導入しました。このビザは正式には「Remote Work Visa」と呼ばれ、EUおよび非EU市民が最長2年間、ラトビア国内に滞在しながら海外の雇用主やクライアントのために働くことを可能にするものです。ラトビアはこのビザを通じて、デジタル技術を活用した働き方の革新と国際的な人材誘致を目指しています。
ラトビアは欧州連合(EU)およびシェンゲン協定加盟国であるため、このビザを取得することで、シェンゲン圏内の他の国々へも自由に移動できる大きな利点があります。これは日本人デジタルノマドにとって、ヨーロッパ全域をベースに活動できる貴重な機会を提供します。首都リガは「バルト海の真珠」とも呼ばれ、中世の旧市街と近代的な都市機能が融合した魅力的な街並みを持ち、UNESCO世界遺産にも登録されています。
ラトビアは人口約190万人の比較的小さな国ですが、デジタルインフラが非常に発達しており、特にインターネット接続速度は世界トップクラスを誇ります。国土の半分以上が森林で覆われた自然豊かな環境と、活気ある都市文化の両方を享受できるため、ワークライフバランスを重視するデジタルノマドに適した環境と言えるでしょう。また、生活コストは西欧諸国と比較して約30〜50%低いため、経済的にも魅力的な選択肢となっています。
ラトビア政府はデジタル化に積極的に取り組んでおり、電子政府サービスの充実度はEU内でもトップレベルです。ほとんどの行政手続きがオンラインで完結するため、外国人にとっても便利なシステムが整っています。また、国を挙げてスタートアップエコシステムの構築にも力を入れており、デジタルノマドとしての活動から将来的に起業への道を模索する方にとっても、魅力的な環境を提供しています。
ラトビアデジタルノマドビザの申請資格と必要条件

ラトビアのデジタルノマドビザを申請するためには、いくつかの明確な資格要件を満たす必要があります。最も基本的な条件として、申請者はラトビア国外に拠点を置く企業に雇用されているか、自身で運営するビジネスをラトビア国外で行っていることが求められます。つまり、収入源がラトビア国外にあることが必須条件となります。また、申請者のビジネス活動はITやテレコミュニケーションなど、デジタル技術を活用した職種であることが前提とされています。
収入要件については、申請前の6ヶ月間における平均月収がラトビアの平均総月収の3倍以上であることが条件となっています。2023年の基準では、これは約2,850ユーロ(約46万円)に相当します。この金額は雇用主からの給与証明書や銀行取引明細書などで証明する必要があります。この収入基準は、デジタルノマドがラトビア滞在中に経済的自立を維持できることを確認するためのものです。
申請者は、ラトビア滞在中の医療費をカバーする健康保険に加入していることも求められます。この保険はラトビア国内で発生する可能性のある医療費を最低30,000ユーロ(約480万円)まで補償するものでなければなりません。日本人の場合、海外旅行保険や国際健康保険など、ラトビアでも有効な保険への加入が必要となります。また、ラトビア国内での住居を確保していることを証明するために、宿泊施設の予約確認書や賃貸契約書の提出も必要です。
犯罪歴についても審査があり、申請者は過去に重大な犯罪歴がないことを証明する必要があります。多くの場合、日本の無犯罪証明書(警察証明書)が要求されます。また、申請者はラトビアの国家安全保障に脅威を与えないことも条件の一つです。ビザ申請時には、これらの要件を満たしていることを証明する各種書類を提出する必要があります。書類はラトビア語または英語で提出するか、公認翻訳者による翻訳を添付する必要があります。
他国のデジタルノマドビザとの比較と優位性
ラトビアのデジタルノマドビザは、他の欧州諸国が提供する同様のプログラムと比較していくつかの独自の強みを持っています。最も大きな優位点は滞在期間の長さです。ラトビアでは最長2年間の滞在が許可されているのに対し、エストニアでは1年、クロアチアでは1年(更新可能)、ギリシャでは1年(更新可能)となっています。2年間という期間は、新しい環境に十分に適応し、深い文化体験をする時間を提供します。
収入要件に関しては、ラトビアの基準(月約2,850ユーロ)は、エストニア(3,500ユーロ)やマルタ(2,700ユーロ)と比較して中程度に位置していますが、ポルトガルの「D7ビザ」(約705ユーロ)よりは高めに設定されています。ただし、ラトビアの生活コストは西欧諸国と比較して低いため、実質的な経済的負担は比較的軽いと言えるでしょう。特に住居費は西欧の大都市と比べて50%以上安く、食費や公共交通機関の利用費も手頃です。
税制面での比較も重要です。ラトビアに183日以上滞在すると税務上の居住者となりますが、二重課税防止条約により、日本とラトビア間での二重課税は回避できます。ラトビアの個人所得税率は累進課税制で最高23%となっており、これはEU平均と比較して低い水準です。また、起業家向けには「マイクロ企業税制度」など有利な税制も用意されています。一方、ポルトガルのNHR(非常駐居住者)制度やジョージアのデジタルノマドビザでは、より有利な税制優遇措置が提供されているケースもあります。
地理的な利点としては、ラトビアはバルト三国の中央に位置し、北欧、東欧、中欧へのアクセスが良好です。リガ国際空港からは多くの欧州主要都市への直行便が運航されており、週末旅行などの移動が容易です。また、隣国のエストニア、リトアニアへは陸路でも簡単にアクセスできます。ヨーロッパ全体を拠点に活動したいデジタルノマドにとって、地理的に中心に近いラトビアの位置は大きな魅力となるでしょう。ただし、アジアとの直行便は限られているため、日本との行き来に関してはヨーロッパの主要ハブを経由する必要があります。
ラトビアデジタルノマドビザの特典と将来展望

ラトビアのデジタルノマドビザ保持者には、いくつかの特典が用意されています。最も重要な特典は、最長2年間の合法的な滞在権と、シェンゲン圏内での自由な移動が可能になることです。これにより、26カ国に及ぶシェンゲン加盟国を観光や短期滞在目的で訪問することができます。また、ビザ保持者は現地の銀行口座開設や携帯電話契約など、日常生活に必要なサービスへのアクセスが容易になります。
ラトビアは世界有数のインターネット速度を誇り、首都リガを中心に多数のコワーキングスペースが点在しています。「TechHub Riga」や「The Mill」などの施設では、高速インターネット環境だけでなく、現地のIT専門家やスタートアップコミュニティとの交流機会も提供されています。また、ラトビア政府主催の「Digital Freedom Festival」や「TechChill」などのテックイベントも定期的に開催され、ビジネスネットワーキングの場としても活用できます。
将来的な展望としては、ラトビアでの長期滞在経験を活かし、永住権の取得や起業の道を模索することも可能です。デジタルノマドビザから一時居住許可、そして永住権へと段階的にステータスをアップグレードする道筋も開かれています。ラトビアは外国人起業家向けのスタートアップビザも提供しており、デジタルノマドとしての経験を経て、自身のビジネスをラトビアで立ち上げるという選択肢もあります。これは特に、バルト地域やEU市場をターゲットにしたビジネス展開を考えている起業家にとって魅力的な選択肢となるでしょう。
ラトビアのデジタルノマドビザは比較的新しいプログラムであり、今後も制度の改善や拡充が期待されています。特にデジタル技術の進化とリモートワークの普及に伴い、より柔軟な条件や追加的な特典が導入される可能性もあります。また、ラトビア政府は2021年に「ラトビアデジタルトランスフォーメーション戦略」を発表しており、今後5年間でデジタル経済と革新を促進するためのさまざまな施策を計画しています。このような国家レベルのデジタル化推進は、デジタルノマドにとっても有利な環境をさらに強化することでしょう。