飲みすぎた翌朝、頭の芯が重くて、水を何杯飲んでも喉が渇く。ゆうべは楽しかったのに、体のほうはぐったりしています。そんな朝を過ごした覚えのある方は、少なくないはずです。
その一方で、「自分はお酒に強いから大丈夫」と言う人もいます。顔も赤くならず、何杯飲んでもけろりとしている。まわりからも「強いね」と言われ、本人もそう思っています。
ただ、この「強い」という感覚と、体の中で実際に起きていることは、必ずしも同じではありません。むしろ、強いと感じている人ほど、気づかないうちに負担を抱えていることがあります。
ここでは、二日酔いの正体から「お酒に強い」の中身までをたどりながら、体とうまく付き合うための手がかりを見ていきます。
二日酔いの朝、体の中で起きていること
お酒を飲むと、アルコールはおもに小腸から吸収され、血液に乗って肝臓へ運ばれます。肝臓では、二段階の処理ラインが動き出します。
まずアルコール脱水素酵素(ADH)が、アルコールを「アセトアルデヒド」という物質に変えます。続いてアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が、そのアセトアルデヒドを無害な酢酸へと分解します。最後は水と二酸化炭素になって、体の外へ出ていきます。
やっかいなのは、途中でできるアセトアルデヒドのほうです。この物質が、頭痛や吐き気、動悸の引き金になります。
飲む量が増えて、処理ラインの手が追いつかなくなると、アセトアルデヒドが分解されきらずに血液の中へ残ります。バケツリレーで、後ろの人が受け取りきれずに水があふれるような状態です。あふれた分が全身をめぐって、あのつらい症状を生みます。
二日酔いは、それだけではありません。アルコールには尿を増やす働きがあり、飲んだ量より多くの水分が体から出ていきます。翌朝やたらと喉が渇くのは、軽い脱水に傾いているからです。
水分と一緒に、ナトリウムやカリウムといったミネラルも失われます。さらに肝臓がアルコールの処理にかかりきりになると、血糖を一定に保つ働きが一時的に手薄になり、だるさや集中力の低下につながることがあります。
二日酔いは一つの原因ではなく、アセトアルデヒドの残留・脱水・ミネラルや血糖の乱れが重なった状態だと考えられています。だからこそ、水を飲むだけでは今ひとつすっきりしないわけです。
「お酒に強い」は、どこで決まるのか
では、その処理ラインの強さは、何で決まるのでしょうか。
大きく効いてくるのが、二つの酵素の遺伝子です。アルコールを分解するADH1Bと、アセトアルデヒドを分解するALDH2。この二つの型の組み合わせで、お酒への反応がおおよそ決まってきます。
とくにALDH2は、日本人の体質を語るうえで外せません。日本人の約4割は、このALDH2の働きが弱め、あるいはほとんど働かない型を持っていると報告されています。少しのお酒で顔が赤くなる人が多いのは、このためです。
ここで押さえておきたいのが、酵素の力は「鍛えて上がるもの」ではない、という点です。
「飲んで鍛えれば強くなる」とはよく言われます。たしかに、飲み慣れるほど酔いにくくなる感覚はあります。ただ、それは脳がアルコールの感覚に慣れているだけで、肝臓の分解能力そのものが上がっているわけではありません。
生まれ持った酵素の型は、あとから変わりません。慣れによって「飲めてしまう」ようになっても、毒性のある物質を体の中で処理する速さは、以前のままです。ここに、後で効いてくる落とし穴があります。
強いつもりの人ほど――静かにたまるもの
注意したいのは、「顔が赤くならないから強い」と思っているケースです。
アルコールを分解するADH1Bには、働きがゆっくりな低活性型があります。日本人ではおよそ7%とされ、この型の人はアセトアルデヒドの立ち上がりが遅いため、飲んでも赤くなりにくいという特徴があります。
赤くならないと、本人は「自分は強い」と感じます。不快なサインが出ないぶん、飲む量が自然と増えていきやすい。アルコール依存症の患者さんのうち約3割がこの低活性型だという報告もあり、けっして小さな割合ではありません。
このADH1Bの低活性型に、ALDH2の弱い型が重なると、話はもう一段変わります。同じくらいの量を飲んだ場合でも、食道や下咽頭のがんになりやすさが、どちらの型も持たない人にくらべて30〜40倍高くなると報告されています。赤くならず「強い」と感じている人ほど、この組み合わせに気づきにくいところがあります。
負担がたまりやすいのは、肝臓も同じです。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、かなり傷んでも自覚症状が出にくいという性質があります。
初期の段階は、脂肪肝です。肝臓に脂肪がたまった状態で、ここまでなら、お酒を控えて生活を整えることで戻せる範囲だとされています。
先ほどの「お酒に弱い体質」は、ここでも顔を出します。熊本大学の研究では、ALDH2の働きが低い型の人は、飲酒習慣がなくても脂肪肝になりやすいことが示されました。飲酒習慣のある人を除いた約340人を調べたところ、この型の人は、そうでない人にくらべて脂肪肝の割合が約2倍高かったと報告されています。
お酒に弱い人にとっては、「飲まないから安心」とも言い切れない、ということです。健康診断のγ-GTPのような肝機能の値を定期的に見ておくと、早めに気づく手がかりになります。
脂肪肝の段階を越えて負担が長く続くと、肝臓は少しずつ硬くなり、元へ戻りにくくなっていきます。だからこそ、戻せるうちに手を打つ意味があります。膵臓も、長期にわたる多量の飲酒で膵炎などとの関連が指摘されている臓器です。
飲む前・飲む中・飲んだあとにできること
自分の体質は変えられませんが、飲み方は選べます。順に整えていけば十分です。
まず、量の目安から。厚生労働省が2024年に示した飲酒ガイドラインでは、お酒の「量(ml)」ではなく、含まれる「純アルコール量(g)」で把握することをすすめています。純アルコール量は、飲んだ量に度数と0.8を掛けて求められ、たとえばビール500mlのロング缶1本で約20gにあたります。
同ガイドラインでは、生活習慣病のリスクが高まる量を、1日あたり純アルコールで男性40g以上・女性20g以上としています。これは「ここまで飲んでよい」という線ではなく、少ないほどリスクは小さくなる、というのが基本の考え方です。1回でまとめて60g以上飲む「一時多量飲酒」は、避けたい飲み方とされています。
飲む前は、空腹のまま飲みはじめないことが役に立ちます。胃に何もないと吸収が速くなり、血中濃度が一気に上がるためです。飲みはじめにチーズやヨーグルトなどを口に入れておくと、吸収がゆるやかになるといわれています。
飲んでいる最中は、水をこまめにはさむのが基本です。お酒と同じくらいの量の水を挟むと、脱水を和らげ、酔いのペースも落ち着きます。おつまみは、たんぱく質やビタミンB群を含むもの――枝豆や卵料理、豆腐などが合わせやすい選択です。
翌朝がつらいときは、水分と糖分を、消化にやさしい形で補うのがよいとされています。水やスポーツドリンク、うどんやお茶漬けのような、胃に負担の少ないものが向いています。しじみの味噌汁やトマトジュースが効くと昔からいわれますが、確かな臨床データがそろっているわけではないので、「合えばラッキー」くらいに構えておくと気楽です。
避けたいのは、迎え酒です。一時的に楽になった気がしても、処理しきれていない肝臓に、さらに負担を重ねることになります。頭痛がつらいときの鎮痛薬も、種類によっては胃や肝臓に負担をかけるものがあるため、飲酒の直後は慎重にしたいところです。
そして、週に1〜2日はお酒を休む日をつくること。肝臓に回復の時間を渡すという意味で、いちばん地道で、効く工夫だと考えられています。
「お酒に強い」という感覚は、頼りになるようで、体の中の話とはずれていることがあります。強いと感じている人ほど、静かに負担がたまっていることがある。そう知っておくだけでも、飲み方は変えられます。
自分の体質を大まかに知り、量を純アルコールで意識して、休む日をはさむ。どれも、今日から始められる無理のない一歩です。
なお、健康診断の肝機能の数値が気になる方や、体調に不安のある方は、我慢して抱え込まず、必要に応じてかかりつけ医に相談しながら進めると安心です。体質を知って付き合い方を整えれば、お酒とは長く上手に付き合っていけます。



